にんげん・せいかつ
Q. 中国とチベットの間には何があったのでしょうか? (中2、男の子)
A. 池上先生:今の中国は「中華人民共和国」と言いますよね。
男の子:はい
池上先生:その前は「中華民国」という名前だったのは聞いたことありますか?
男の子:聞いたことはあります。
池上先生:そうですか。更にその前は「清」という国でした。清という国が中華民国になり、中華人民共和国になったんですが、その清という国の西側にチベットという国がありまして、清にしたらチベットは自分たちの国の一部だという思いがありました。
一方で、チベットは清を隣の国だよ、お付き合いしているだけだよ、という感じがあったんです。その後、中華民国の時にチベットは中華民国の中の一部だよ、とチベットと中華民国が約束しようとしたんですが、これが約束しかかったまま止まってしまったんですね。
その時、中華民国は、「あっ、これでチベットは自分たちのものになった」と思ったし、チベットは、「いや、これで自分たちは独立した別の国だよ」と宣言したんですね。だけど、この独立を世界の国々が認めなかったんですね。
秦先生:なぜですか?
池上先生:要するに、あまり関心がなかったり、中華民国との関係の方が大事だなって思ったりしたんですね。独立というのは、自分が独立しただけでは必ずしも独立国としては認められなくて、周りの国々が、「あそこは独立した国だよね」と言ってくれないと駄目だっていうのがあるんです。
だからチベットは独立国じゃないよと思っている国もあるし、一方でチベットの人の多くは自分たちは本当は独立国なのにと思ってることがあるんです。
それが、1949年に「中華人民共和国」という国になりました。この時に中華人民共和国のリーダーだった毛沢東(もうたくとう)という人が、「中華民国の時代、中国の人は大変苦しい思いをしていた。私たちが、その人たちを楽にしてあげる、解放してあげる」、「中華民国の時もチベットは、中華民国の一部だったんだから私たちがチベットの人たちを楽にしてあげる」と言って軍隊をチベットに送り込んだんですね。
おねえさん:助けてあげるということですか?
池上先生:そう。だけどチベットの人たちからすると、そういう余計なことはしてほしくなかったなという思いがあったんですね。その時に軍隊もいたことだし、「中華人民共和国の一部になることをしょうがない、認めますよ」ということになったんですね。
ですから、中華人民共和国からしてみれば、チベットは中国の一部だよって言い方をするわけですね。ところがチベットの人たちからしてみると、無理やりさせられちゃったんだから嫌な思いがあったり、その後もチベットの人たちはチベット仏教を信じているんですが、中国という国は「宗教を信じるというのはおかしい」という考え方でずっと来たもんですから、チベットの人たちからしてみると、「自分たちの意見が認められないなあ」という思いがありました。
特にチベット仏教の指導者だったダライ・ラマという人は、だいぶ前になりますが、1959年にチベットにいられなくなって、隣のインドに逃げたんですね。その後もチベットからインドに逃げていく人がずっといる。不満を持っている人たちがいっぱいいるわけですね。その人たちが、今年いよいよオリンピックが開かれる。世界の目が中国に注がれる。
この時にチベットの人たちは自由じゃないんだよということを世界に訴えれば世界の人たちがチベットのことを考えてくれるな、という思いがあって、チベットで大きな騒ぎが起きた。それをきっかけに世界の人たちが、「あっ、それはチベットの人たちはかわいそうだ。オリンピックがそのまま行われるなんて認められない、よし、聖火を妨害しよう」という人が出てきてしまった、ということなんですねえ。
おねえさん:訴えたいという気持ちがあって妨害する形になったということなんですね。
秦先生:妨害って言葉はあまり良いことじゃないけど、そうするとチベットは独立をするんですか?
池上先生:例えば、今のダライ・ラマ14世という人が、インドに逃げてきましたけれども、チベットの人たちがみんな敬愛、尊敬している人なんです。で、この人は、「中国からの独立は主張しません。中国の中にいてよいです。ただ、自治っていうんですけれども自分たちのことは、自分たちで決める。自分たちの代表は自分たちが選挙で選んで、その地域で政治をする、そういうことを認めてほしい」と言っているんですね。
ところが、中国からすると、それを認めてしまうといずれまた、チベットは独立すると言いかねない。中国の中には他にもウイグル自治区とか内モンゴル自治区とかですねえ、あちこちに中国から独立したいと思っている人たちがいるんですね。チベットを認めちゃうと、他が次々にそうなって中国がバラバラになってしまうということを心配している人たちもいるということなんです。
おねえさん:なるほど。たしかに、今ここに地球儀がありますが、チベットのところは線が入っていないんですよね。中国の中に入ってますし。でも、「独立したいな」と思っても周りの国も「じゃあ、独立だね」と言ってくれないと駄目っていうのは初めて知りました。自分で思うだけじゃ駄目なんですね。
秦先生:難しいですよねえ。

フリージャーナリストの池上彰 先生

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