コラム|『ニューイヤー駅伝2017』

2017年1月1日 (日) あさ8時30分よりTBS系列生中継!

コラム

2016年12月31日更新 text by 寺田辰朗

第7回神野vs.服部、エース区間の4区で箱根駅伝を沸かせた両ルーキーが激突
1区の戸田、3区の山中もV候補チームで重要な役割

内容

31日にスタートリストが発表され、優勝候補チームの主要区間にルーキーが名を連ねた。
3連勝を狙うトヨタ自動車は服部勇馬(23)、3年ぶりV奪回を期すコニカミノルタは神野大地(23)と、エース区間の4区(22.0km)を新人に託した。2人の競り合いが見られるかどうかはタスキが渡る位置関係によるが、箱根駅伝エース区間の2区で2年連続区間賞の服部と、山登りの5区区間記録を持つ神野が、上州路を舞台に直接対決する。

日清食品グループは1区に戸田雅稀(23)、Hondaは3区に山中秀仁(22)を起用。前半の重要区間で、チームに流れを呼び込む役割を、こちらも注目のルーキーが任された。

神野、区間賞なら“神っている”シーズンに

箱根駅伝の3代目“山の神”として名をとどろかせた神野大地だが、コニカミノルタのエース区間を実業団1年目で走ることは予想できなかった。
ハーフマラソンで1時間01分21秒の好記録は持っていたが、1万mのベストは28分41秒48で(大迫傑の持つ学生記録が27分38秒31)、決してスピードがあるランナーではなかったのだ。
さらにいえばニューイヤー駅伝の5区以降は、向かい風が強烈に吹く。1年前は43kgの体重だった神野にとっては難しい区間。神野はニューイヤー駅伝に出られないのではないか、という声も一部に出ていた。
「入社する前は、今の自分の力ではレギュラーになれないのではないか」
神野自身もそう思っていたという。
「チームの信頼を勝ち取るために、4月からの練習とレースに取り組みました」
5月に1万mで自己新をマークすると、7月には28分17秒54とさらに大幅な自己記録更新。9月の全日本実業団では日本人3位に入った。トラックの躍進だけでも驚かされたが、その勢いは得意のロードにもつながった。

11月の東日本実業団駅伝は最長区間の2区に抜擢されて区間3位。
そして11月末の甲佐10マイル(約16km)がすごかった。国内実業団チームのアフリカ勢が、5kmを14分5〜6秒で通過するハイペースだったが、日本人選手でただ1人食い下がった。終盤は今井正人(トヨタ自動車九州・32)や木滑良(MHPS・26)ら、九州上位チームのエースたちが追い上げてきたが、余裕でかわして日本人トップとなった。
実業団入り後の成長の理由を、神野は次のように自己分析した。
「学生時代から体幹トレーニングに取り組んできましたが、当時は40人の部員全員に当てはまるメニューでした。そのトレーナーさんと個人契約をして、今は1対1で、自分に最適のメニューを組んでもらっています。自分のように大きく腕を振っても(軸が)ぶれないフォームになり、今はさらに、上体にひねりを加えて、推進力を得やすい動きになるトレーニングをしています。それが甲佐ではできるようになっていました。その結果で、ニューイヤー駅伝の4区をという気持ちになったんです」

磯松大輔監督も「東日本の走りでは4区はまだ酷かな、と思っていましたが、甲佐の走りを見て大丈夫だと思いました。ハーフマラソンの距離なら今、日本で一番強いかもしれない」と高く評価するようになった。
1年前には出場も危ぶまれた神野が、わずか1シーズンでエース区間を任されるまでに成長した。そのこと自体に、箱根駅伝5区区間記録以上の驚きがある。
神野は本番の目標をきっぱりと話した。
「優勝を狙うチームの4区を任せてもらえたからには、区間賞を取るのが自分の役割です」
“山の神”から、実業団駅伝のナンバーワンに。それが実現すれば、まさに“神っている”シーズンとなる。

「(神野に)先行されていたら追いつき、追い抜きたい」と服部

服部勇馬も「優勝を狙うチームなので」と、神野と同じコメントをするかと思われたが、服部は控えめだった。
「僕でタイムを稼いで優勝をたぐり寄せるのでなく、僕がしっかりとつなげば、後ろの区間で勝負できるチーム。結果的に優勝につながります」
おそらく、自身の「爆発力よりも、安定した走りが特徴」という点を冷静に判断したのだろう。
チーム状況も、服部のイメージと合致した。コニカミノルタは故障者が多く、神野の4区でできるだけアドバンテージを得たい。それに対してトヨタ自動車は、3区に絶好調の大石港与(28)を配し、不安のあるインターナショナル区間の2区(8.3km)で多少後れても、3区(13.6km)でトップ集団に加わることができる。6区には、2年連続区間賞でリードを奪ってきた田中秀幸(26)も控えている。

神野のことを質問されると服部は、「あまり気にしていません」と答えた。2年連続区間賞の設楽悠太(Honda・25)が東洋大の2学年先輩である。「どちらかというと悠太さんが流れを左右すると思うので、離されず、深追いせず、後半に勝負ができれば、と思います」
服部と神野は、レース前の気持ちのコントロールの仕方が違うのかもしれない。神野は積極的な発言でテンションを上げて走るタイプで、服部は落ち着いた発言をして冷静に走るタイプと思われる。
服部も3週間ほど前の取材時には、神野のことを積極的に話していた。
「神野君は大学の時は競い合うチームで、山を驚異的なペースで登っていましたから、脅威だと思っていました。ニューイヤー駅伝で一緒の区間を走るなら、コニカミノルタはやはり意識しないといけないチームですから、先行されていたら追いつき、追い抜くくらいのつもりで走ります」
だからといって、神野に対して闘争心を前面に出すわけではない。
「自分が力を出し切らないと負けてしまうので、やるべきことをやって、自分の走りに集中するだけです」
こう強調したのが服部らしい。

箱根駅伝を辞退した戸田の、駅伝への情熱

神野と服部が箱根駅伝を沸かせたスターであるのに対し、日清食品グループの戸田雅稀は箱根駅伝を辞退した選手である。
正確にいえば、所属する東農大が予選を通過することができなかった。混成チームの関東学生連合に招集されたが、脚の状態に不安があり、トラックシーズンのことを考えたら、冬期の間もしっかりと準備をしたいと判断した。
一部の駅伝ファンからは批判も出た。
「だから今年は、しっかりと結果を残さなかったら叩かれる。自分自身、辞退して良かったと思える成績を出したかった」
その言葉通り、戸田はトラックシーズン前半から好調だった。4月の兵庫リレーカーニバル1500mで3分39秒67の日本歴代11位をマークし、6月の日本選手権同種目に優勝。11月には1万mで28分22秒17と自己記録を大幅に更新した。

だが、戸田が16年シーズンで最も嬉しかったレースは、そのどれでもなかった。東日本実業団駅伝の1区区間賞である。
「久しぶりの駅伝で、どれだけ走れるのか不安もあったなかで区間1位がとれました。チームが優勝したことも初めての経験で、嬉しさが個人とは違っていました」
箱根駅伝出場辞退の一番の理由も、自身が4年間頑張ってきたチーム以外で駅伝を走ることに、価値を見いだせなかったから。そのくらい、駅伝に対しての思いは強い。

ニューイヤー駅伝本番も1区と決まった。
1万m日本記録保持者でリオ五輪代表だった村山紘太(旭化成・23)との対決になる。
「普通にやったら勝てない相手だと思います。でも、ラストまで行ったらどうなるかわかりません」
チームで挑む駅伝という舞台が、上り調子のルーキーに、予想以上の力を与えるかもしれない。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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