コラム

2019年12月30日更新 text by 寺田辰朗

第7回会社創立100年で優勝を目指すマツダ
強みは山本、延藤の両エースとマツダ流育成術

内容

前回7位入賞のマツダが、会社の創立100周年にあたる今回、48大会ぶりの優勝を目指している。
躍進の原動力は山本憲二(30)と延藤潤(28)の両エースが、日本トップレベルに成長したこと。前回のニューイヤー駅伝では山本が4区区間3位、延藤は3区区間2位。2人は今季も順調で、中国予選では1区(12.5km)で山本が、最長区間の6区(19km)で延藤が区間新をマークし、チームは2位に2分25秒差をつけて圧勝した。
今回も延藤が3区、山本が4区にエントリーされた。2区終了時点の位置次第では、前回15人抜きを見せた延藤でトップに立ち、山本で差を広げる展開も期待できそうだ。
マツダの特徴は選手育成に、ビジネスの手法を取り入れていること。選手に自ら考えて判断していくことを求め、目標管理シートなども活用し、各選手の目標やその達成度合いを共有している。その強化スタイルで若手が成長していれば、100周年優勝も夢ではない。

山本は4区をMGCファイナルチャレンジへのステップに

3年連続4区を走り、前回は区間3位(1時間05分30秒)でチームを4位に押し上げた山本は、MGCファイナルチャレンジを見据えた走りをする。
「目標は他の選手との勝負ではなく、前回の自分より速く走ることです。それができれば1〜2月に良い練習ができ、東京マラソン(3月1日)でMGCファイナルチャレンジ記録に挑戦するための良い流れになると思っています」
山本は18年2月の東京、19年3月のびわ湖と連続で2時間8分台。特にびわ湖では30kmから外国勢を相手に前に出るなど、積極的な走りをしたことが高く評価され、MGCではダークホースの1人に挙げられていた。

だが設楽悠太(Honda)を追う2位集団で、鈴木健吾(富士通)が20km付近から前に出て中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(ナイキ)がリードしたところで自重してしまった。「ゆっくり追いつけばいい」と考えたが、そのまま後退してしまった。
山本は一度、12km過ぎと早い段階で仕掛けている。練習も、1カ月前に脚の痛みで2週間ほど中断した。増田陽一監督はマラソンで初めて、レース前に注目を浴びたことも一因だったのではないか、と指摘する。
それらの影響が出た可能性はあるが、山本は「実力不足だった」とした上で、MGCファイナルチャレンジで最後の1枠を狙いに行くことを決めた。2時間05分49秒の派遣設定記録を破れば代表が有力になる。
MGC後に休んでトレーニングを再開したが、「去年よりスピードが出て、良い練習ができている」という。
「走り出したとき近くに選手がいたら突っ込むしかありませんが、オーバーペースになって失速したら元も子もありません。最後まで持続できるペースをどう見つけるか。駅伝のそういうケースでは判断力が重要です」
駅伝は頭脳戦でもあることを、山本の言葉が示している。詳しくは後述するが、そうした判断力をつける育成方法をマツダは採っている。

前回3区区間2位の延藤はスピード持久力に手応え

マツダが100周年Vを実現するには、3区の延藤で優勝争いに加わる必要がある。
前回は区間賞の鎧坂哲哉(旭化成・29)と2秒差の区間2位、区間記録の37分52秒とは14秒差だった。そのときは5kmを13分34秒、10kmは27分24秒と10000mの日本記録を上回るタイムで通過した。そのくらいスピードが出るのがニューイヤー駅伝の3区である。
延藤はこの1年間で、5000mの自己新も出したが、スピード持久力への自信を深めている。11月の中国予選は6区19kmで区間新、そのときの10km通過は28分25秒だった。
「当初はそこまで速いペースで突っ込む予定ではなかったのですが、当日のアップと涼しいコンディションから、2分51秒でずっと押して行けると感じて変更しました」
ハーフマラソンも2月と6月に1時間2分台で走り、「ハーフにも適性がある」と手応えを得ている。3区でも前回と同じくらいに速く入っても、終盤までスピードを維持できる。
「前回は区間記録まで行ける練習ができていたとは思えなくて、区間ヒト桁順位に入ればいいと予測していました。この1年間の練習を考えたら、今回は区間新記録も狙えます」
今でこそニューイヤー駅伝の区間賞を狙う選手に成長した延藤だが、大学では箱根駅伝を一度も走ることができなかった。ケガも多く、20kmを超える距離への対応が不十分だったこともあるが、「緊張やプレッシャーで体調を崩していた」ことが大きかった。
それがマツダ入社後には、故障が少なくなった。
「フィジカルトレーニングなどでフォームが安定したことや、大きな大会を経験して緊張による負担が減ってきました。メンタルトレーニングを行ったことも成果がありました」
東洋大では設楽と同学年。入社6年目の28歳は若いとはいえないが、延藤はこれから旬の時期を迎えようとしている。

ビジネスの手法と山本のキャプテンシー

マツダが100周年に優勝を目指すことを決めたのは、5年前の2014年だった。新しく着任した部長の発案だったが、20位台が続いていた時期。予算の少ない地方のチームに、大学時代のトップ選手は入ってこない。
増田監督は「チーム内からは『現場の苦労がわかっていない』『そんなことを言ったら笑われる』という反応が出ましたね」と当時の内情を明かす。
「しかし大きな目標に向けて頑張ることは、悪いことではありません。目標を設定し、難しいことにチャレンジすることには価値がある。ただその頃は、本気で優勝と思ったのは圓井(彰彦・35)だけだったかもしれません」
しかしその目標を目指す過程で山本が強くなり、延藤が続いた。前回のニューイヤー駅伝5区で区間4位と好走した橋本澪(25)も育った。3人とも大学時代はエースではなく、チーム内で中堅以下の選手だった。
マツダは自動車業界では大手とは言えない企業。限られた人材をしっかりと育てる社風があるという。
「チームカラーに合う選手を採用して、2年、3年かけて芽が出ればと思って育てています。マツダのカラーに合うのは、周りが言ってくれることに素直に耳を傾けられる選手ですね。最初の2〜3年はスタッフがトレーニングなどの方向性を示しますが、その後は目指す大会も選手個々で違ってきますから、トレーニングを自分で考えて組み立てられる選手になってほしい。スタッフの役割は選手がやりすぎるのを止めること。それが実業団だと思います」
そのスタイルで山本や延藤が、日本のトップレベルに成長した。

2017年には目標管理シートを取り入れた。
「会社の業務でも半期毎に目標を設定し、どう仕事を進め、どう成長するかを、フォーマットの定められたシートに記入しています。それを陸上競技にも応用し、トレーニングや出場する試合の判断材料にしています。選手にとっては書き出して可視化することで、頭の中を整理できるようになりました」
その目標管理シートなども使って、選手間のコミュニケーションを活性化させたのが、2018年にキャプテンに就いた山本だ。ポイント練習以外の練習も、各選手が何をやっているかを文字にして共有できるようにした。そして選手だけでもミーティングを開き、問題や疑問点を感じている選手に、他の選手が自身の経験や知識でアドバイスをした。
山本がその取り組みの理由を説明してくれた。
「この人は何でポイント練習が走れているのか、試合で走れているのかを、他の選手が考えられます。人に見せられない練習をしたら、チームとしてはもったいない。色んな大学から集まった選手がいるのですから、それぞれのノウハウを共有したら良い選手が増え、良いチームになっていきます。僕も今30歳で、陸上競技を10年、15年とやってきて気づいたことを、22〜23歳の選手に教えています。教えられた選手は、僕よりも7〜8年も早く気づくことができるわけです。橋本や向(晃平・23)は教えてもらったことを、すぐに行動に移せるタイプですね。個人種目だけならやる必要はなかったかもしれませんが、2020年に駅伝で優勝するためには、そういった取り組みも必要だと判断しました」
マツダのこのスタイルは、エリートではない選手が集まったチームだからできたこと、なのかもしれない。

成長著しい2年目の向と35歳・圓井の思い

延藤で優勝争いに加わるには、1区の山本雄大(26)が前回のように区間30位では難しくなる。1年前はトップから30秒差という目標で、その通りに25秒差で走った。入賞するにはそれでよかったが、今回狙うのは優勝である。
増田監督は山本雄について、「今年は距離への不安がなくなったので、先頭集団で行けるところまで行きます」と、前回よりも自信をもって送り出す。
そして3・4区で優勝争いに加わるか、トップに立った場合、5区以降でそれを維持する必要がある。前回5区を区間4位と好走した橋本が欠場するが、代わって向晃平(23)が走る。國學院大から入社2年目で、今季大きく成長した選手だ。
大学時代は「4年間のうち2年間は故障していた」(國學院大・前田康弘監督)と言われるほどケガが多かったが、フィジカルトレーニングも積極的に行い故障が減った。
向本人も「そこまで大きな効果ではありませんが、走りが少し楽になりました」と感じている。
そしてマツダの強化スタイルがプラスに働いた代表例、ともいえる選手だ。
「マツダは選手主体のチーム。自分で考えてやっている選手が結果を出して、その考え方やトレーニングを自分も参考にしています」
村山謙太(旭化成・26)や服部勇馬(トヨタ自動車・26)、山本浩之(コニカミノルタ・33)ら、格上の選手たちが相手になる。そのメンバーでトップを維持するのは簡単ではないが、向個人の成長にチームの勢いが加われば、サプライズを起こす可能性もある。

そして7区を走るベテランの圓井の存在が、チームの支えになる。
圓井は山本憲二の前のエースで、4区を区間9位で走ったこともある。福島県出身で今井正人(トヨタ自動車九州・35)と同郷同学年。ずっと目標としてきた今井に勝つためにマラソンに挑み、17年東京マラソンで2時間13分台で走ったが、そこから腰痛を頻発するようになってしまった。
18年のニューイヤー駅伝1区(区間34位)で悪化させ、その後は小さな試合にしか出ていなかったが、11月の中国予選で本格的に復帰。7区区間賞の走りで、ニューイヤー駅伝でも戦力になることをアピールした。
「苦しい時期もありましたが、2020年の駅伝で優勝する目標があったので、それをモチベーションにできました。以前はチームのエースじゃなくなったらやめようと思っていましたが、今は僕がサブ区間を走るくらいになれば優勝できる、と考えるようになっています。自分が復帰して、使えるものなら使ってくれ、という気持ちです」
圓井は自身の主要区間出場が難しいと認識したとき、目標管理シートを活用し、理想と現実にギャップが生じて苦しまないように工夫した。駅伝で勝つために段階となる目標も明文化し、そのためにチーム全体が何をすべきかを若い選手たちにアドバイスしてきた。
圓井は優勝したとき、インタビューで何を言うか考えているという。長年マツダを支えてきた最古参選手が、本気で勝ちに行こうとしている。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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