コラム

2017年12月31日更新 text by 寺田辰朗

第7回区間エントリー決定
どの区間でもトップに立てる旭化成。
4区が区間賞経験者のトヨタ自動車とHondaは、5〜6区で勝負の布陣

内容

旭化成、トヨタ自動車、Hondaの3強の区間エントリーは、前回と比べて大きく変更をしてきた。それでもディフェンディング・チャンピオンの旭化成は、どの区間でもトップに立つことができる顔ぶれで、優勝候補筆頭といえそうだ。

しかし駅伝は、選手が自身の役割を果たしたチームに流れが傾く。Hondaは4区の大エース設楽悠太(26)が追い上げ、5・6区で勝負に出る布陣。トヨタ自動車は4区までがしっかりとつなげば、やはり5・6区で勝負に出ることができる。
富士通も3区の松枝博輝(24)が期待通りに快走すれば、4区以降もトップを走り続けることができる。
3強の区間エントリーの狙いと、1区から順に各区間のレース展開を展望する。

3区を前回から変えてきた3強

旭化成は3〜5区の3人は前回と同じ3人だが、4区区間賞だった市田孝(25)を3区に、3区だった大六野秀畝(25)を4区に入れ替えた。
「最近の練習で大六野が良くなってきた。大六野は3月のびわ湖に向けてマラソン練習もして、スタミナもついている。22kmも十分持つ」と宗猛総監督。
1区は茂木圭次?(22)で、1区候補だった鎧坂哲哉(27)が7区に入った。茂木の調子が上がっていたことと、鎧坂のラスト勝負の強さを考慮したという。そして前回1区の村山紘太(24)と、7区だった佐々木悟(32)が控えに回った。5区の村山謙太(24)と、6区の市田宏(25)の2人は前回と同じ区間を走る。
アンカー勝負も想定しつつ、1区から6区まで、どこでトップに立ってもおかしくない布陣になった。

前回2位のトヨタ自動車は昨年まで3年連続6区の田中秀幸(27)を3区に、14年の4区区間賞の宮脇千博(26)を4年ぶりに4区に、そして前回3区区間賞の大石港与(29)を5区に配置換えしてきた。手術から復帰した窪田忍(26)はここ数年、勝負を決める区間となっている6区に起用された。
佐藤敏信監督は「田中も悪くなかったし、宮脇はマラソン用に長い距離の練習もしている。大石は優勝した15年に、5区で勝負を決める走りをしていますから」と説明する。
宮脇に4年前のスピードが戻っていれば4区でトップに立つ可能性もあるが、トヨタ自動車としては5区で勝負に出て、そこで決着をつけられなかったら6区の窪田で、という布陣だろう。

Hondaは、設楽悠太(26)は4年連続で不動の4区だが、東日本予選アンカーで逆転Vの立役者となった松村優樹(24)を3区に抜擢し、前回3区で準エースの山中秀仁(23)を5区に起用してきた。そして6区にリオ五輪マラソン代表の石川末廣(38)が入った。
大澤陽祐監督は区間起用の意図を次のように話した。
「山中が向かい風と上りに強いので、5区を任せたいと考えました。3区候補は他にもいましたが、追い風なら松村が確実に行ける。3区をしのげば4区の設楽でトップに立てます」
最低限でも4区の設楽でトップ争いに加われば、5区の山中で抜け出せる。
どの区間でもトップに立てる旭化成は別として、トヨタ自動車とHondaは5区で抜け出すことを想定した布陣。5区で決定的なリードを奪えなかったら、6区の窪田と石川が、勝負を決める役割だ。
両チームとも1区が前回経験者で(2人は同タイムだった)、3区に調子の良い選手を持ってきて、4区が区間賞経験者(学年も同じ)。自動車メーカー2チームが、期せずして似たパターンの選手起用になった。

1区は走力の茂木か、ラストに強い選手か?

1区ではDeNA・上野裕一郎(32)と住友電工・遠藤日向(19)の新旧対決が注目される。日本選手権1万m2位の上野が格上だが、故障明けでどこまで調子が戻っているか。箱根駅伝1区区間賞のトーエネック・服部弾馬(22)を加えた3人は、ラストの強さを持つ選手たち。残り500mを切っても3人がトップ集団にいたら、すごいスピードの競り合いになる。
前回区間3位の九電工・東遊馬(22)、同5位のMHPS・目良隼人(25)、ひらまつ病院・梶原有高(29)、そして旭化成・茂木の九州勢も区間賞候補。ハーフマラソンで1時間0分台を持つ茂木が完全復活していれば、力は一枚上かもしれない。
2区はDeNA・カロキ(27)と九電工・タヌイの(27)の2人が、1万mで26分台の記録を持つ。しかしカロキは1カ月前の福岡国際マラソンを走ったばかりで、完全な状態ではないという。タヌイの九電工がトップに立つか。

MHPSのオムワンバ(22)、旭化成のキプヤティチ(24)も、九州予選でタヌイを抑えて区間1位と2位(小差ではあったが)。オムワンバは脚の故障が心配なくなり、入社して一番良い状態だ。
1・2区はセットで考える必要があるが、九州勢ではトヨタ自動車九州もズク(23)と、黒崎播磨のムァゥラ(19)も上位に浮上してきそうだ。九州勢以外ではHondaのマレル(23)、日立物流のディク(26)、日清食品グループのレオナルド(23)らがトップに立つ可能性がある。

中盤の主要区間、3〜5区の攻防の意味するところは?

3区は区間賞のトヨタ自動車・大石、Hondaの山中と、前回経験者が他の区間に回った一方、富士通の松枝博輝(24)、MHPSの木滑良(26)と、予想された選手を起用してきたチームもある。
前回4区区間賞の市田孝を持ってきた旭化成と、日本選手権優勝の松枝を起用した富士通は、ここでトップに立ちたい。
市田孝は3区への意気込みを次のように話した。
「距離が4区と比べると短いので、オーバーペースとまでは言わないまでも速く入って、後半もペースを落とさない走りをします。自分の区間で2連覇に近づく走りをしたい」
田中のトヨタ自動車と松村のHondaは、「しのぐ区間」(Honda・大澤監督)ではあるが、この区間で良い方に結果が出れば、4区でトップに立つこともできる。
最長区間の4区は、3区終了時点のタイム差が大きければ、トップに立っている旭化成・大六野や富士通・横手健(24)、DeNA・室塚健太(31)が、トップをキープする可能性がある。

注目したいのは、設楽がスタートするときのトップとのタイム差だ。旧コースではあるが、設楽が2年前に区間記録を出したときは区間2位に24秒差をつけた。今回も30秒程度の差なら、トップ集団に追いつく可能性が高い。
問題は今回からコース序盤が変更され、小さな起伏が続くこと。設楽のようなスピードランナーが前回までのように最初から飛ばし、リズムに乗ることができるかどうか。
とはいえ設楽も宮脇も、マラソンに取り組み始めたことがプラスに出るかもしれない。以前のようなスピード一辺倒のランナーではなくなっている。宮脇は自身の変化を、同じ4区で見せたいという。
「(マラソン向きの)新しい走り方が4区でどこまで通用するか、自分でも楽しみにしています。苦しくなってからペースを落とさずに走りきりたい」
4区でトップに立ちたいのは井上大仁(24)のMHPSだろう。木滑を6区に起用して優勝を狙う攻撃的な布陣で臨む可能性もあったが、前回同様3区に起用してきた。3位以内の目標を達成するために、世界陸上マラソン代表だった井上でできる限り上位に進出しておく狙いだ。
旭化成が優勝するとしたら、1〜2区の序盤、または3〜4区の中盤でトップに立って逃げ切る可能性があるが、他のチームが優勝するとしたら5区以降でトップに立つケースではないか。

前述のようにトヨタ自動車は大石、Hondaは山中と、ともに上りと向かい風に強い選手を前回の3区から5区に移してきた。元旦の天候を考慮したのかもしれない。
旭化成の村山謙太(24)は向かい風が得意ではないが、前回の5区でトップに立った成功体験がある。前回同様15秒前後の差なら、気持ち良く走るのではないか。もちろん、トップを独走している可能性もある。
3強以外では富士通が中村匠吾(25)、トヨタ自動車九州が今井正人(33)、MHPSは定方俊樹(25)を起用してきた。
中村と定方は、トップでタスキが来る可能性がある。中村は東日本予選2区で、前半はトップに進出する良い走りができた。そのときは後半で崩れて後退したが、今回しっかりと調整ができていれば、最後まで走りきるだろう。
定方はタイプ的に、トップを守る方が強さを見せそう。仮に4区の井上がトップに立ち、定方がそのポジションを守り切れたなら、6区で順位を下げても、7区には14年アジア大会マラソン銀メダルの松村康平(31)がいる。
そして台風の目となるかもしれないのが今井である。4区の元区間記録保持者で、ニューイヤー駅伝では必ず区間上位の走りをしている。4区の押川裕貴(27)も好調なだけに、5区でトヨタ自動車九州が一気に上がってくる可能性がある。

6区区間賞選手チームの優勝は継続するのか?

6区は13年以降、コニカミノルタの2連勝時には新田良太郎が、トヨタ自動車の2連勝時には田中が、そして前回の旭化成優勝時には市田宏(25)と、優勝チームが必ず区間賞を取ってきた。選手層の厚さが現れる区間なのだろう。
今回は旭化成が市田宏、トヨタ自動車は窪田、Hondaは石川、そして富士通は潰滝大記(24)である。市田は区間記録保持者で、窪田はトヨタ自動車の2連勝時には連続4区を走った選手。石川はリオ五輪マラソン代表で、潰滝は世界陸上ロンドン3000m障害代表だった。いずれ劣らぬ実績の持ち主だ。
13年以降の6区の区間賞選手は、全員がトップでタスキを受け取っている。前回の市田のように、先頭の利点を生かして前半は抑えて入って後半に差を広げた選手もいたし、田中のように最初から速いペースで入って、後続の戦意をくじいた選手もいた。
2018年は、どちらのパターンの6区になるだろうか。

そして7区には旭化成が、5000mと1万mの2種目で日本歴代2位を持つ鎧坂を起用してきた。「どんな順位でタスキをもらっても、優勝のテープを切る」と鎧坂は意気込む。
トヨタ自動車は主要区間を何度も走っている早川翼(27)で、Hondaは東日本予選6区で見事な追い上げを見せた上野渉(27)である。上野は近年目立った戦績はないものの、今が入社後で一番状態が良い。実績では鎧坂や早川に劣るが、調子では上回る。
富士通も星創太(29)と、4年前の日本選手権5000m優勝者を持ってきた。MHPSもアジア大会マラソン銀メダルの松村、日清食品グループは13年までトラック種目の代表常連だった佐藤悠基(31)である。
トヨタ自動車が初優勝した2011年を最後に、アンカーの競り合いは一度もないが、今回はこれだけのメンバーが7区に起用された。前回の旭化成も、リオ五輪マラソン代表だった佐々木が優勝テープを切っている。アンカー決戦になったら勝負の責任を持たせる意味も含め、実績あるチームの看板選手に最後を締めさせることがトレンドになっている。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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