コラム

2019年12月28日更新 text by 寺田辰朗

第5回「初出場初優勝」を目指すGMOインターネットグループ
復活した一色やMGC5位の橋本ら、青学大OBたちに求められるものとは?

内容

GMOインターネットグループが「初出場初優勝」(花田勝彦監督)を掲げて上州路に挑む。主力を形成するのは青学大で箱根駅伝優勝を経験した3人だ。
一色恭志(25)は青学大が箱根駅伝に初優勝した15年大会で、2年生ながらエース区間の2区を区間3位と好走。以後4年時まで3年連続2区を区間3位で走り、18年大会までの青学大4連勝のうち3回をエースとして支えた。
1学年上の橋本崚(26)は青学大時代に箱根駅伝出場がない。神野大地(セルソース・26)と同学年で、山登りの5区の控え選手だったのだ。GMO入社後にマラソンで頭角を現し、今年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ。上位2選手が東京五輪マラソン代表に決定)で5位と大健闘した。優勝した中村匠吾(富士通・27)、2位の服部勇馬(トヨタ自動車・26)、3位の大迫傑(ナイキ・28)ら終盤まで優勝を争った走りは見事だった。
森田歩希(23)は2年時の17年箱根駅伝3区区間2位で、青学大の3連勝目に名を連ねると、3年時は2区区間賞で4連勝に大きく貢献した。4年時は11月末に左脚付け根を痛め2区を外れたが、3区で区間賞、9人抜きの韋駄天走りを見せた。チームは2位と敗れたが、森田の駅伝力は高い評価を得たのである。

この3人でニューイヤー駅伝の3・4・5区を担当すると思われるが、花田勝彦監督は上武大出身の倉田翔平(27)を「チームで一番スピードがある。主要区間で使いたい。優勝するためには、倉田が任された区間を(区間賞くらいで)走ることが一番重要」と話した。
上州路のニューフェイスの、特徴と現状を紹介する。

MGC欠場の一色がエース区間候補に

花田監督は一色に対し、「青学大が優勝したときのレース。ウチが優勝するにも、彼がエースに相応しい走りをしてほしい」と期待する。
今季の一色は4月末のハンブルク・マラソンでMGC出場権を獲得したが、左脚の腸脛靱帯の故障でMGCを欠場した。だが9月には痛みが引き、11月の東日本予選は準備不足で5区区間5位だったものの、その後の宮崎合宿などではレベルの高い練習ができている。
「ここ1カ月でスピードが戻り、ジョグの量も減らしていません。スピードとスタミナを両立できています。社会人になって(痛みなどもあり)思ったような結果を出せていませんでしたが、ようやく痛みも完治して走りの感覚が良くなっています。楽にスピードを出せる状態になってきました」
11月末の10000mは28分40秒08で自己記録には約16秒及ばなかったが、「あっという間に終わった10000m。つねに気持ちに余裕がありました」と言う。

大学駅伝で活躍した選手が実業団入り後、故障が多くなったり、目標設定などが上手くできなかったりして伸び悩む現象が見られる。一色はマラソンでMGC出場権を獲得しているので当てはまらないが、苦しんできた部分はある。
「故障で走れない期間が少し続くだけで、自信をなくしてしまったこともあります。大学では出雲(全日本大学選抜駅伝)、全日本(大学駅伝)、箱根(駅伝)と目標設定もしやすいのですが、社会人は自分で出る大会を決めて、1年の流れを決めます。最近やっと、上手く組み立てられるようになりました。学生時代に戻すというより、練習を積んで新たな自分になってきています」
一色が実業団ランナーとして成長できたということだろう。
そのタイミングで初めて、実業団駅伝に臨む。ニューイヤー駅伝のエース区間で簡単に区間賞が取れる、とは思っていない。「強い人が近くにいたら、絶対に付いて行きます」と謙遜気味に話したが、「人が嫌がる走りはできる」と付け加えた。

花田監督は現役時代、代表選手を何人も輩出したエスビー食品でニューイヤー駅伝を走った。自身もトラックとマラソンで日本代表になっている。当時監督は瀬古利彦氏(現日本陸連マラソン強化リーダー)で、「私や渡辺(康幸・現住友電工監督)はエースとしての走りを求められました。一色もそういう星のもとに生まれた選手。区間賞を狙って攻める走りをしてほしい」と期待する。
GMOの初出場初優勝には、エースとしての一色の走りが重要になりそうだ。

スピードの森田とスタミナの橋本

同じ青学大出身でも、一色、橋本、森田はタイプが異なる。森田が一色と自身の違いを次のように話してくれた。
「一色さんはスピード練習をやらなくてもスピードを出せる。僕はスタミナ練習をやらなくても、長めの距離を走れます。でも僕は、スピード練習をやらないとスピードは出せません」
橋本については後述するが、一色はマラソン練習をやってきても、駅伝用のスピードを出せるということだ。森田はスタミナ練習が少なくても、20km前後の距離なら走りきることができる。1年前の箱根駅伝3区を練習不足でも区間賞が取れたのは、その特性が発揮されたからだろう。
GMOは大半の選手がマラソンに取り組むが、森田は1年目ということもあってトラック中心に出場してきた。7月に5000mで13分43秒10、11月に10000mで28分29秒43と自己新でも走った。アフリカ選手が11人出場した東日本予選2区を、区間6位で走ったことも評価を高めた。
「ハーフマラソンで日本記録を出すのが現時点で一番の目標で、その先にマラソン挑戦を考えていますが、今はハーフのためのトラックです。チームのみんながマラソンをやっているので、(スピードがある)自分の区間で先頭に立つのが役割。そこは頑張りたい」
一色が4区を走れば森田は3区の可能性が高いが、花田監督は「3区でも4区でも行ける」と特定しない。それだけの可能性を感じさせる選手ということだろう。
どの区間でも、GMOの初出場初優勝に森田のスピードは欠かせない。

では、橋本の出場区間はどうか。花田監督は「4区も5区も行けます。アンカーも面白いですよ」と、起用区間を複数想定している。
橋本は典型的なスタミナ型選手。自身初のサブテン(2時間10分未満)を達成した2月の別大マラソン前は、「2カ月間、スピード練習はあまりやらず、40km走をいっぱいやって臨みました」と言う。
しかし7月には10000mで28分35秒37の自己新で走った。MGCに向けてマラソン練習をしながらでも、トラックのスピードが上がっていた。
夏場のマラソンではあるが、日本で5番目のポジションまで成長した(MGCはマラソンの日本選手権も兼ねていた)。だがMGCファイナルチャレンジで代表入りできる2時間05分49秒の設定記録は、「今の自分には厳しい」と判断した。
「MGCの最後3kmで引き離されたのも、ハーフマラソンの力の差でした。マラソンだけやっていていいのかな? という思いがあるので、次は世界ハーフ(3月)を狙うことを考えています。ちょうど良いタイミングでニューイヤー駅伝がある」
自身に足りないスピードを強化するため、駅伝を利用する。自身の競技的な成長を考えたときの冷静な判断だ。
だが橋本にとってニューイヤー駅伝は、大学入学後7年間出場できなかった注目度の高い正月の駅伝である。MGCほどプレッシャーは大きくないが、橋本にとっては晴れ舞台である。
「トラック・駅伝では普通より下の選手」と謙遜気味に話すが、7年分のエネルギーが爆発することも十分ありそうだ。GMOの初出場初優勝には、橋本の爆走も必要なピースとなる。

上武大OBの倉田も主要区間候補

倉田は花田監督が上武大時代から9年間、指導してきた選手である。「高校、大学と“未完の大器”でした。この1年、やっと彼の強さが出てきました」
大学2年時に全日本大学駅伝1区で区間3位と好走したが、箱根駅伝は3年時に2区区間8位、4年時は4区区間7位で、目立つ選手ではなかった。卒業後1年間は日立物流に所属しながら上武大の花田監督のもとで練習を積んだが、ニューイヤー駅伝は5区で区間30位とブレーキといえる走りだった。マラソンも17年の2時間13分16秒が自己ベストで、今季は2時間17分台とくすぶっている。
だが今季後半は好調を続けている。東日本予選1区区間4位、八王子ロングディスタンス10000mで28分14秒62と自己記録を15秒近く更新した。同じ組で走った森田に先着しているのだ。

未完の大器が力を発揮できるようになった理由を、花田監督は次のように説明した。
「自分のデータを分析できるようになりました。以前は説得力のない分析になっていましたが、今はこういうデータ的な根拠でこの練習をしたい、と言ってくるようになりましたね。メンタルトレーニングにも取り組みました」
練習では光るものがあり、他チームの指導者から高く評価されたこともあったが、試合でなかなか力を発揮できなかった。それがやっと、継続して取り組んできた努力で花開こうとしている。
ニューイヤー駅伝は東日本予選と同じ1区の可能性が高いが、花田監督は「1区か3区」と、3区起用も考えている。前述したように、倉田が任された区間で快走することが、勝敗の行方を左右する。
「GMOは青学大出身選手だけではないことを見せてほしい」
青学大OBだけではなく、複数の大学OBの力が融合して初めて、GMOの初出場初優勝が実現する。

潜在能力を引き出す何かを起こせれば

初出場初優勝を目標とするが、それが簡単でないことは選手も花田監督も、十分認識している。橋本は自身も言うようにマラソンの実績で、他の選手は大学駅伝での実績だ。将来性があるのは確かだが、初出場の実業団駅伝で走れる保証はない。
潜在的な力や実業団入り後の取り組みを今回発揮するには、何かが必要だと花田監督は感じていたのだろう。次の点を強調したのである。
「(出場できるか)ボーダーラインの選手は残りの期間で、気持ちを前面に出す走りをしてほしい。そういう気持ちの選手が揃わないと、初出場初優勝はできないと思います。(チームの成績も)選手たちはみんな、現実的には3位から5位くらいなんじゃないか、と思っているかもしれない。でも、それでは勝てないんです。自分たちは絶対に勝つ。どれだけ強くその気持ちを持てるかが勝敗を左右する」

花田監督が一色に要望したように、区間上位でまとめる走りではなく区間賞の走りをしないと、今のGMOの戦力では勝てないだろう。そのためには、どれだけがむしゃらな気持ちで走ることができるか。前半区間で誰かがそうした走りをすれば、それが起爆剤となって良い連鎖反応が続く可能性はある。
大学駅伝スター選手たちの潜在能力を引き出す何かを起こせたとき、GMOの初出場初優勝が実現する。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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