コラム

2019年12月24日更新 text by 寺田辰朗

第2回3連勝中の旭化成に匹敵するトヨタ自動車の選手層
五輪マラソン代表の服部がエース区間に意欲

内容

旭化成と2強を形成するのがトヨタ自動車である。令和初優勝の座を、激しく争うと見られている。
服部勇馬(26)が9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ。上位2選手が東京五輪マラソン代表に決定)で2位となり、2020年東京五輪マラソン代表を決めた。今大会に出場する唯一人の五輪代表だ。トヨタ自動車は過去3回ニューイヤー駅伝に優勝しているが、16年大会が最後。勝てば服部にとっても初の優勝となる。
初めてということでは、ニューイヤー駅伝初出場となる西山雄介(25)が重要な区間を任されそうだ。また過去2回、6区を走って優勝してきた田中秀幸(29)にとっては、6区以外を走って初めての優勝になるかもしれない。

服部が見せたい“駅伝の走り”

服部がエース区間の4区とオリンピックへの意欲を、はっきりと示した。「負けたくない相手は?」という質問に対し、4区で区間賞3回の設楽悠太(Honda・28)と、前回区間賞の井上大仁(MHPS・26)の名前を挙げたのだ。
「マラソンの記録で自分より上の2人に勝負を挑み、競り合う走りをしたいんです。その2人に勝てば、オリンピックに向けても自信がつく」
東洋大時代には箱根駅伝2区でも、終盤で村山謙太(旭化成。当時駒大)に競り勝ったことがある。トヨタ自動車がリードして服部にタスキが渡れば、設楽や井上に追いつかれても得意とする競り合いに持ち込める。
服部が試されるのは、他の有力選手を追う展開になるケースだ。10000mで27分台を持つ選手も何人か出場するだろう。28分09秒02が自己記録の服部が、27分台ランナーたちに前半から対抗できるのか。
「自分の欠点は爆発力。これまでは流れを変える走りができませんでした。前半から突っ込む走りができるようにしたい」

17年大会は入社1年目ながら4区を任された。5kmを13分55秒とかなり速いペースで通過したが区間5位に終わっている。順位は1つ上げて2位で中継したが、区間賞の市田孝(旭化成・27)に差を詰められ、5区で旭化成に逆転される一因となった。
18年大会は故障の影響で出場できず、前回19年大会は区間賞を獲得したが準エース区間の5区だった。トヨタ自動車はこの3年間、2位・3位・3位と優勝を逃し、旭化成が3連勝している。
今回4区なら3年ぶりとなるが、マラソンで五輪代表となった今は、3年前とは走力が違う。マラソン練習を今のスタイルに変え始めた18年以降は、トラックの記録にこだわらなくなっているだけで、服部も10000mが弱いわけではない。トヨタ自動車の佐藤敏信監督は「本気でやれば勇馬も27分台は出せる」と見ている。
“流れを変える”走りができれば、トヨタ自動車は前半で少し出遅れたとしても服部の区間で立て直せる。服部がトップでタスキを受け取ったときに速い入りをすれば、他チームの追い上げは難しくなる。
服部が“駅伝の走り”をすることで、トヨタ自動車は有利な展開に持ち込めるのだ。その走りはマラソンで競り合いになったときにも武器となるはずだ。

新戦力の西山は五輪代表2人の後輩

旭化成が齋藤椋(21)、小野知大(20)が駅伝デビューして活躍する可能性があるなら、トヨタ自動車は西山雄介(25)が初出場で大きな役割を果たしそうだ。
西山はMGCが行われた9月15日は故障中で「気持ちが乗っていない」時期だった。だが、MGCをテレビで見て衝撃が走った。優勝した中村匠吾(富士通・27)は、伊賀白鳳高と駒大を通じて2学年先輩だった。そして2位が服部である。
「身近にいる勇馬さんと、高校・大学の先輩の匠吾さんの2人が五輪代表を決めて、すごくうれしく思いました。それに対して自分のレベルの低さ、やっていることの意識の低さをすごく感じたのです。うれしさよりも、そっちの方が大きかった」
トレーニングに取り組む姿勢などすべてを、競技につながるように行動を突き詰めた。一例としては、練習に対する準備を入念に行うようになった。どうすれば身体が動き、効率よく走れるか。
伊賀白鳳高も駒大も、駅伝の強豪校である。レベルの高い競技への取り組み方を教えられてきたが、さらに高いレベルで行わないと実業団では通用しない。教えられたことをやっているだけではダメなのかもしれない。
西山もMGCの衝撃だけで変わったわけではない。入社後の2シーズンで問題意識を持ち続けていたから、何を変えるべきかを思いつくことができた。

入社1年目は11月に10000mで28分29秒23と自己新を出し、タイムだけならメンバー入りも可能なレベルに達したが、「その後の練習がガタガタで、メンバー入り以前の問題だった」という。実業団では個人の成績が大事だという認識もあって、メンバーから外れても悔しさは小さかった。
それに対して2年目は、シーズンを通じたトレーニングも、ニューイヤー駅伝直前の練習も、1年目よりできるようになった。メンバーから外れたときは、「1年目に悔しくなかったのは間違いだった」と気づいた。
その西山が、3年目の今年に入って成績が安定し始めた。

2月の唐津10マイル(約16km)は、「入社後初めて勝つレース」ができた。3月の世界クロスカントリー選手権を初めて日の丸を付けて走り、99位と不本意な結果に終わったが、世界を目指すために何が足りないかを真剣に考え始めた。
レースの前半は良いリズムで走れても、「中盤で我慢できなくなる」ことを課題として取り組み、7月の5000mで13分49秒03の自己新で走った。ピークを完全に合わせたわけではなかったが、中盤の我慢の仕方がつかめてきた。
課題へ向き合い、解決するやり甲斐を感じていたタイミングでMGCを見て、西山の意識がさらに高くなったのだった。
11月の中部実業団対抗駅伝はエース区間の3区(12.2km)に起用され、服部弾馬(トーエネック・24)に17秒差で区間1位。11月末の10000mでも28分16秒41と自己記録を更新した。
12月上旬の千葉県白子合宿も順調にこなすことができたという。
「これからさらに強度の高い練習が続きますが、外す感覚はありません」
今の好調ぶりなら、スピードの求められる1区や3区へ起用されても、期待に応える走りができる。向かい風に対しても「人よりは強い」と西山は話しているので、5区以降でも力を発揮しそうだ。
「初出場で注目されないかもしれませんが、見ているみんながビックリする走りをしたい。ニューイヤー駅伝は区間賞でデビューします」
初出場らしからぬ落ち着き、ゆとりのようなものが、今の西山からは感じられる。

6区で区間賞2回=優勝2回の田中

トヨタ自動車は選手層の厚さも旭化成に匹敵する。チーム6〜7番目の選手が走る6区で、旭化成の市田宏(27)が3年連続区間賞を獲得しているが、市田宏の前は田中秀幸(29)が15・16年大会と連続区間賞を取っていた。トヨタ自動車が2連勝した大会である。
トヨタ自動車の前に2連勝(13・14年大会)したコニカミノルタも、6区の区間賞を2年連続で取っていた。つまり過去7大会連続で、優勝チームの選手が6区で区間賞の走りを見せているのだ。
だが選手にとっては、6区以外に起用される方が力を認められたことになる。田中も入社1年目の14年大会は3区に抜擢された。前年の箱根駅伝4区区間賞を取ったことや、特徴であるスピードを期待されたからだが、区間8位だった。チームも全体的に低調で7位にとどまった。
田中は18年大会で3区に復帰したが区間6位。悪い結果ではなかったが、チームも3位と3連勝を逃している。

今季の田中は5000mで13分22秒72と自己記録を大幅に更新し、あと0.72秒で世界陸上ドーハの参加標準記録を突破できた。スピードランナーがそろう3区に起用されても、区間賞候補に挙げられるだろう。
田中からは「4区以外なら何区でも走ります」と、“6区以外V”に意欲的なコメントもあった。だが、「自分は6区をやりたいと思っているんです」とも明言した。
「コースも(18年大会から)少し変わりましたから、どんなコースなのか興味があります。それに6・7区に調子の良い選手置けるチームが勝てているので、キーマンの1人として走ってみたい」
田中の武器として、スピード以外には向かい風への強さがある。ニューイヤー駅伝の6区は例年、強い向かい風が吹く。トヨタ自動車が拠点とする愛知県田原市も風が強い地域だが、「田中さんだけ向かい風を感じていないみたいな走りをする」というチームメイトの証言もある。
今季の田中が6区を走ったとき、チーム内6〜7番目の選手と言っていいのか難しいが、前半区間を任せられる選手がいることを示しているのは間違いない。田中の起用区間が、トヨタ自動車のどんなチーム状況を表しているのか。そこも今回の注目点だろう。

区間賞選手が5人在籍する背景は?

トヨタ自動車には過去、5区の服部、6区の田中以外にも区間賞を取ったことのある選手が3人いる。
大石港与(31)は15年大会5区と17年大会3区で、早川翼は15年大会と18年大会の7区で区間賞を獲得した。ちなみに15年大会は5区・大石、6区・田中、7区・早川と3区間連続区間賞で、前年まで2連勝中だったコニカミノルタに快勝した。
そしてトヨタ自動車の最多区間賞男が宮脇千博(28)である。高校を卒業して入社2年目の12年大会3区を皮切りに、13年大会1区、14年大会4区と3年連続区間賞の快挙を達成した。

宮脇は12年ロンドン五輪では10000mで、あと一歩で代表入りというところまで迫った。15年以降は故障も多くなり以前のような爆走はなくなったが、堅実な走りを続けている。ニューイヤー駅伝に8回出場して5区(16年)と7区(17年)も走り、インターナショナル区間の2区を除けば、6区以外の全区間を経験した。
駅伝やトラックで爆発的な走りができなくなった一方で、マラソンでは苦労しながら2時間8分台まで記録を伸ばし、MGCの出場権も得た。MGCでは以前の故障の影響が出て途中棄権に終わったが、10年にわたってチーム内で存在感を示し、駅伝ではしっかり役割を果たしてきた。
その宮脇が前回、ニューイヤー駅伝で初めてメンバーから外れた。12月頭に左脚大腿骨の剥離骨折をして、「走れる状態になくなった」(宮脇)。年末にはインフルエンザにも罹(かか)り、群馬に行くこともできなかった。
途中棄権に終わったMGCからの復調も、試合ではまだ示していない。それでも佐藤敏信監督は「甲佐10マイルの10km通過が29分(00秒)くらいで悪くありませんでした。彼の経験にも期待しています」と、12人のエントリーメンバーに登録した。
宮脇自身は「今は練習の苦しいところで踏ん張って、自信を取り戻すしかない」と、最善を尽くしてニューイヤー駅伝に合わせようとしている。
「今の自分の状態とチーム状況を見たら、可能性があるのは5区、6区、7区。特に6区だと思います。マラソンを始めてから1km3分00秒ペースで走る感覚が、良くも悪くも強くなっています。6区で向かい風が吹いてくれたら同じようなペースになるので、今の自分の強みを生かせると思う」
エース区間の4区、スピード区間の3区と1区で区間賞を取ってきた宮脇が、今の自分を6区で生かしたいという。それがトヨタ自動車というチームなのだ。
19年が入社10年目のシーズンだった。同学年には大迫傑(ナイキ)や設楽悠太(Honda)らがいる。トラックで代表入りし、マラソンでも成功している選手たちだ。
「選考のステージに立ってみると、代表は遠いもの、力の差があったのかなと感じました。それでも日本代表は、今でも陸上人生の目標であることに変わりはありません。3月の東京マラソンで代表入りに挑戦しますが、その過程でも駅伝を走るのがトヨタ自動車というチーム。駅伝の優勝争いがチームの絶対条件なんです。それに貢献できる走りができなくなったら、このチームにいる意義はなくなります」
こうした思いを持って頑張り続ける選手が増えれば、必然的に選手層は厚くなる。大石や、福岡国際マラソン日本人トップの藤本拓(30)は、30歳をこえてもマラソンで好成績を残し、駅伝でも強さを見せる。田中と早川も29歳だ。

駅伝優勝を目指す過程で自身の課題に向き合い、個人でも結果を残す。個人の力が上がって駅伝でも快走する。良い循環がトヨタ自動車はできている。
ニューイヤー駅伝の目標を問われた佐藤監督が、次のように答えている。
「駅伝で優勝して、服部のオリンピックに勢いをつけたい」
おそらく、駅伝の目的(の1つ)として初めて、特定の個人名を挙げた。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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