コラム

2019年12月22日更新 text by 寺田辰朗

第1回「絶対的なエース不在」でもエース級選手の多さで4連覇に挑む旭化成
注目は区間配置。成功パターンになるのか、新戦力加入の新オーダーか

内容

3連勝中の旭化成が「令和初の優勝に挑戦する」(西政幸監督)と、4連勝に意欲を見せている。
選手層の厚さは相変わらず分厚いが、焦点はその厚さがどう駅伝に反映するのか。3つの視点で今季の旭化成を紹介する。
1つめはエース区間の4区候補選手の多さ。2つめは3年連続5・6区を走ってきた村山謙太(26)と市田宏(27)の成功パターンの強さ。そして3つめは茂木圭次郎(24)が初めて3区を走ったり、高卒入社2年目の小野知大(20)が初出場したりする新パターンだ。
成功パターンと新パターンが融合した布陣となる可能性もある。

市田孝の現状と駅伝への思い

旭化成の3連勝は市田孝(27)と大六野秀畝(27)が、エース区間の4区を走ってきた。
17年大会は市田孝が区間賞で18年ぶりのV奪回に貢献した。18年大会は大六野が区間5位で、“つなぐエース区間(その区間をしのいで他の区間で攻めるケース)”の役割を果たした。前回19年大会は市田孝が区間16位とブレーキをしたが、チーム状況がよくないなか、市田孝が4区を走ることでチームが崩れなかった。

市田孝は今回も4区に意欲を見せている。
「前回あれだけ悔しい思いをしたので、4区でリベンジしたいです。区間賞を取ってチームの4連勝に貢献したい。ニューイヤー駅伝は年の始まりの大事な大会。19年は(ブレーキをして)ずっと、引っかかっているものがありました」
市田は1年前、12月頭の福岡国際マラソンに出場し、2時間12分32秒で12位になった。ニューイヤー駅伝に向けての最初の練習から左脚のすねに軽い痛みを感じたが、走ることができると判断して練習を継続した。本番まで1週間を切った段階で大六野が練習でよくなかったため、3区の予定だった市田孝が4区に回った。
微妙な痛みと直前の区間変更。その状況にも市田孝は怯まなかった。結果的にブレーキとなったが、大六野と市田孝がエース区間を外れると、代わりに4区を走る選手は心身両面の準備不足で臨むことになり、プレッシャーが大きくなっただろう。入れ替えが生じる他の区間にも、動揺が広がった可能性がある。

双子の弟の市田宏は「孝でなければできなかった。プレッシャーのかかるあの状況で、覚悟ができたのは孝だから」と、そばで見て感じていた。
市田孝は今回も福岡国際マラソンに出場し、MGCファイナルチャレンジ設定記録の2時間05分49秒に挑戦した。中盤まではそのペースで走ることができたが、後半でペースダウンした。
「福岡があんな走りだったので、ダメージがあると言っていられません。練習で疲労を感じたときもありましたが、それでも徐々に動きが良くなってきて、今は良い状態が保てています」
失敗した前回の轍は踏まないだろう。

故障で苦しんだ大六野も復調

もう1人の4区候補の大六野も、順調なシーズンは送れなかった。
2月の別大マラソンで、左足にマメができたのに無理をして完走した。かばって走ったため右脚の脛と足底を痛め、完全に回復するのに約5カ月かかってしまった。「競技人生で一番キツかった」という期間になり、復帰戦は9月にずれ込んだ。
しかし復帰戦での10000m28分35秒95は大六野健在を印象づけ、11月の九州実業団駅伝は7区で区間賞。区間2位に43秒差をつけた。

希望区間については、1年前のことや故障期間を考慮してか、4区に強い意欲を示していない。チーム全体が好調なことも、大六野の言葉を慎重にさせているようだ。
「例年以上にチーム全体が質の高い練習をこなしています。若手にも勢いがある。自分は選ばれた区間で役割を果たせればいい。(そのくらい)メンバーが充実しているのが旭化成の強みだと思います」
自身では4区と言わなかった大六野だが、西監督は市田孝と大六野を4区候補に挙げ、2人に続くのが今季好調の茂木だという。
詳しくは後述するが、村山と市田宏も4区に意欲を示している。
西監督は「絶対的なエースがいない」と控えめに言うが、4区候補がここまで多いチームは旭化成以外にはない。

村山はMGCファイナルチャレンジへのステップ

村山は9月のベルリン・マラソンで2時間08分56秒の自己新で走った。旭化成の現役ではリオ五輪代表だった佐々木悟(34)と並ぶ最高タイムで、3月の東京マラソンで東京五輪代表3枠目を取りに行く。選考規定では、2時間05分49秒以内のタイムを出す必要がある。
そのための布石として、「ハーフマラソンで速い動き」をやっておきたい。2月の全日本実業団ハーフで、1時間0分台を狙って走る。ニューイヤー駅伝でも「4区はスピードに乗りやすいので、そこで自分の求めている動きで走る」ことが目標だ。それができれば区間賞を取り、チームの4連勝に貢献することになる。
「MGCを走った選手たちが注目されるでしょうけど、その人たちに負けたくない」と、エース区間に意欲的だ。

その一方で3年間、区間1位・1位・2位で走ってきた5区に対し、プライドのような気持ちも持つ。17年は4人抜きでトップに立ち、18年は並走していたHondaを突き放した。19年はトップのMHPSとの差を34秒まで縮め、6区での逆転劇をお膳立てした。
「4区ほどのメンバーにはなりませんが、ニューイヤー駅伝は5区がカギになる。そこで結果を残してきたことは、誇りに思っています。他のチームも5区をもって重視していいのでは」
4区か5区か。出場区間は12月30日の区間エントリーまでわからないが、旭化成の駅伝で必ず重要な役割を果たすのが村山だ。

成功パターンの象徴が6区・市田宏

西監督がニューイヤー駅伝を前に、「成功体験(を活用する)」という言葉を多く使っている。具体的には5区の村山と、6区を3年連続区間賞で走っている市田宏のことを指す。
駅伝はその時点の各選手の力と、チーム全体のバランス、ライバルチームへの対策なども加味してオーダーが決まる。毎年同じ区間配置にはならないが、この2人を5区と6区に起用できると、2人個人の力はもちろんのこと、チーム全体の力が発揮しやすい状況になるようだ。

市田宏は6区の走り方を、以下のように説明する。
「アンカーの1つ前の区間で、6区の走り次第で勝敗がどちらにも転ぶ大事な区間。緊張してしまうとペースを崩すので、自分を見失わず、自分のペースを把握して走っています。国道50号に入る5km手前まではアップのつもりで走って、そこからギアチェンジする」
市田宏は3年連続トップでアンカーにタスキを渡している。17・18年大会はトップで走り始めて、2年とも2位に1分近い差まで広げ、勝敗をほぼ決する走りをした。前回の19年大会は2位でタスキを受け取り、2秒差ではあったが、MHPSを逆転して7区の大六野へトップ中継した。
その市田が明らかに、例年以上に好調なのだ。12月1日の甲佐10マイルに46分02秒で優勝し、コニカミノルタ4区候補の蜂須賀源(25)と、前回4区区間賞の井上大仁(MHPS・26)に10秒以上先着した。10km通過は28分0秒台だったという。

しばらくマラソンを走らず、トラックとハーフマラソンに注力すると決めたことも、プラスに働いているようだ。その好調ぶりから、前半区間への起用があるのだろうか。
「希望としては3区や4区を任されたい気持ちはあります」と市田宏自身は意欲を持っている。だが市田孝や大六野、シーズンを通じて好調だった茂木らが4区候補で、市田宏は練習では不安定さが残るという。
ただ、試合でピークが合ったとき、市田宏がより強くなっているのは確かだ。旭化成の5・6区の区間配置が、村山・市田宏なら成功パターンが例年以上に威力を発揮する。2人が5・6区以外に起用されて優勝したときは、旭化成は新たな成功パターンを築くことになる。

茂木&小野、高卒入社組の成長

新たな成功パターンは、茂木や小野、齋藤椋(21)ら、高校から入社して強くなった選手たちで作られる可能性もある。
旭化成は10000m日本記録保持者の村山紘太(26)が、夏の故障による練習不足の影響から、12人のエントリーメンバーから外れている。東京五輪をトラックで狙う準備の意味もあるという。しかし17・19年と2度、1区を走ってきた中心メンバーが不在となった。
前回3区区間賞の鎧坂哲哉(29)も故障明け。10000mの27分台は出せる状態だが、ペースの上げ下げへの対応に不安があって11月末の八王子ロングディスタンスを欠場した。前半区間ではなく、後半区間への起用があるかもしれない。
その2人の代わりを十二分に果たせるのが、今季の茂木である。18年大会では1区区間9位で、トヨタ自動車やHondaといった優勝争いをするチームに先着。優勝にしっかり貢献した。
今季はさらに成長を見せ、6月の日本選手権5000mで4位に入賞し、11月の八王子ロングディスタンスでは最終組で1位となり、28分06秒51の自己新をマークした。

西監督は茂木を4区候補の1人に挙げ、本人も「今回は1区か3区、場合によっては4区」と自覚している。
好調の要因には「土台ができてきた」と自己分析する。距離を走ることができ、フォームも丁寧に作ってきた。ハードに追い込む練習も確実に行ってきたという。
茂木は15年大会に、高卒ルーキーながら5区を任された。だが、翌年に村山兄弟、市田兄弟、大六野ら、大卒の強力メンバーバーが大量に加入。16年大会も5区で区間5位と期待に応えたが、3連勝のうち17年と19年はメンバーには入れなかった。
今回3区か4区に起用されれば、チーム内のポジションが上がったことになる。1区でも3区でも、自身のスピードと今の状態を見極め、走り方のシミュレーションもしっかりとできている。これまで以上に貢献度の大きい走りができそうだ。
そして西監督が「前半区間に使ってもいいくらいの力がありそう」と期待しているのが、鶴崎工高から入社2年目の小野である。甲佐10マイルでは市田宏に18秒差の5位。西監督は9月の全日本実業団陸上ジュニア5000mの走りも高く評価している。「1人で引っ張って、ぶっちぎって勝った。ジュニアじゃない」

旭化成はニューイヤー駅伝平成最初の大会から6連勝したが、「その間も毎年、新戦力が入って大きな役割を果たす走りをしてきた」と、当時現役だった西監督は指摘する。その中から佐保希や高尾憲司が、トラックで日本代表に成長した。
その旭化成スタッフが見て、小野は代表に成長する可能性がある選手なのだ。小野がメンバー入りして4連勝を達成したとき、旭化成は令和でも連勝を継続できるチームになる。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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