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<小説版>ああっ女神さまっ 初終 ―First End― 外伝
夢みる翼
EPISODE-4「大切なもの」 「…と…魔法陣に関する書はデータ化したし…特記事項の復習に…あとは」 パッドを見ながらつぶやくその声がだんだん大きくなっていることに気が付いていないのは、本人ばかりである。システムルームを出て、白銀の回廊を中程まで行ったところで、最高に大きな声を出した。 「あっ…幻獣辞典!」 厚さ5センチは優にあるえんじ色の革表紙の本を忘れてくるとは…注意力散漫と女神エイルにまた叱られそうだ。フレイアは慌てて踵を返した。 やっとシステムルームへ向かうリフターへたどり着いてみると…そこには先客が立っていた。 “げっ…ウ…ウルド…どうしてここに?!” 管理限定でありながら、システム管理を人任せにして勝手に地上に降りて以降、滅多なことでは天界に戻って来なかった“時の女神”の長女。 女神としての責務を果たさず…自由気ままに行動してばかりしている彼女が、フレイアは苦手だった。 “なんとなくだけど…思うに、この人とトラブルって表裏一体のような気がするわ” この間の大変な作業が思い出される。 ユグドラシル・システムの不調がどうにも改善されず…自分たち準一級神も駆り出されて女神ペイオースと共に四苦八苦しているところへ現れたのがウルドとスクルドだった。おかげでなんとかシステム異常は改善されたのだが…姉妹ケンカで大騒ぎになる中のバグ取りやシステムの洗い直しの作業は…それはそれは大変だったのだ。 システム異常とウルドの帰還が直接関係ないことは頭では理解できていても、あまりのタイミングの良さに、つい、当の本人がトラブルを天界に持ち込んでいるように感じられてならない。 “どうしよう…” 本当は一台やり過ごしてウルドがいなくなってから待ちたいところなのだが…講義の時間が迫っている今、道中にかかる時間を考えるとそんな余裕はない。 “あっ…でも…” 暗闇に光明が射す。 あのとき、システムリカバリーに駆り出された女神たちは何人いただろう。常にルームへの出入りは途絶えなかったし、ウルドは妹スクルドともめていた。そんな状況の中、たくさんいたオペレーターに混じっていた自分を覚えている確率は、とてつもなく少ないはずである…というよりは覚えていないだろう…きっと。 “よしっ” フレイアは意を決してリフター乗り場へと歩み出た。 近づいて来る足音に銀髪の女神が振り向く。 少し距離を置いて立ち止まると、フレイアは小さく会釈をした。黄金色の髪に顔を隠す様に俯き加減を維持しながら…努めて冷静にその形をキープする。 だが…リフターを待つ時間は、永遠にも感じられるほど長い。 “もうっ…どうしてさっさと来ないのよっ” 思わず顔を上げた瞬間…青紫の瞳と視線が合った。 「…あら…?」 ウルドの言葉に身体が固まる。 「…この間は、お疲れさま」 “え〜〜〜っ…覚えてるのっ?!” 希望的観測を断ち切られたショックに耐えながら、フレイアは精一杯の…しかしかなり引きつった笑みを浮かべた。こうなったら自分から挨拶した方が痛手が少ない。例え相手が二級神とはいえ、過去を司る時の女神だ。 「お…覚えていただけていたなんて…光栄です。…女神ウルド」 「いいわよ…ただのウルドで。そういう堅っ苦しいの好きじゃないから」 公的な場において名前に“女神”や“神”を付けるのはマナーだ。これらは敬称に値するので、下の者が上の者を呼ぶ時はなおさらの事。ましてや一級神の見習いである準一級神は特にしっかりと義務づけられていた。 「とっ…とんでもありません」 「ふふっ。マジメね」 リフターはまだ来ない。 褐色の肌を持つ半神半魔の二級神…フレイアはじっとウルドを見つめていた。噂では一級神となるだけの力は十分に持ち合わせているという。なのに何故二級神に留まっているのか…どうしても分からない。渦巻く疑問がつい口をついて出た。 「…どうして…一級神にならないのですか?」 言ってしまってから慌てて口を押さえる。なんと大胆な言葉を出してしまったのだろう…だが、焦るフレイアに逆にウルドが質問を投げかけた。 「じゃあ…なんで一級神になりたいの?」 「えっ?」 みんな一級神を目指すものなのだと…一級神になることこそが全てなのだと…当たり前の様に思っていた事を改めて問われ、フレイアは言葉を失っていた。 「なんで…一級神に…」 頭の中でぐるぐると思考が回る。 “オペレーションシートに座るって…女神ベルダンディーの様になるって…助けを求めて来たものに幸せを与えるって…私は…私は…” ポーンとリフターの到着音が響き、下層へ行く扉が開かれた。 「なんの為の力なのか…誰が為の一級神なのか…」 銀髪が揺れる。 「…がんばってね。フレイア」 「え!?」 ウルドが乗ったリフターが見えなくなった頃、上層行きのリフターがやっと到着した。 講義に遅れたのも、集中していないと女神エイルに叱られたのよりも、もっと。 もっと…ウルドに言われた言葉はショックだった。 私はどうして一級神になりたいのだろう? なんの為に力を得るのだろう?…そして…誰の為に…? その答えを導き出さなければ、一級神にはなれない気がする。 その答えを知っているから、ウルドは二級神でいるのかもしれない。 …ウルド… ちゃらんぽらんでいい加減で嘘つきの二級神…っていう噂を鵜呑みにしていたけど… そうじゃないのかもしれない。 …私の名前を知っていたのも…驚きだったけどネ。 ユグドラシルは穏やかな夜を迎えている。 光る星々の中光る軌跡を残しながら、流れ星が天空を横切って行った。 to be continued...
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