|
||||
<小説版>ああっ女神さまっ 初終 ―First End― 外伝
夢みる翼
EPISODE-2「天使」 「…以上がユグドラシル・システムの概要ですわ。もちろん管理限定を目指すのではないのですから、全てを覚える必要はありません。しかしながら、一級神たる者…あり余る知識に無駄はなし。…そうではありませんこと?」 漆黒の髪を揺らし、ハイレグから伸びたしなやかな足を組み替える。凛とした声が隅々まで通り響き渡った。 ここシステムルームは…筒状に囲まれた壁は一面パネルとなっており、グリーンやオレンジに点滅しては流れていく光の軌跡が、息をつく間もないくらい早い。整然とした室内は、やわらかな雰囲気のオペレーションルームとは全く違う趣を醸し出していた。 「はい。女神ペイオース」 一級神二種非限定であるペイオースの言葉に、一糸乱れぬ言葉で答えるのは、準一級の女神たちだ。皆が一言一句聞き漏らすまいと必死に耳を傾けている中…ひとりパッドとにらめっこをしているフレイアは、心の中で大ブーイングを叫んでいた。 “女神ベルダンディーは契約だから良いとしても…ウルドは…ウルドはどうして地上界に降りたままなわけ?!…そしてスクルドも!彼女に至ってはまだ天界での講習も終わっていないはずよ。それなのに地上講習って…。時の女神たちだからって、ウルドにも、スクルドにも、みんな甘すぎるわっ” そう…。 本来ここは管理限定のウルドが仕切るはずのエリア。ついでにスクルドもここでバグの状況を監視・除去を行っていたのだが…今はペイオースが数名のアシスタントと共に、それら全てを引き継いだ形となっている。 別に二級神管理限定のウルドに教えを乞いたいわけでもなんでもないが、勝手気ままなウルドの行動に釈然としない。その思いをぶつけるかの如く、パッドに教えられた事を書き込んでいたフレイアだったが…。 「くすくす…」 微かな笑い声に顔を上げた。 「あ…いえ…失礼。“女神フレイアの半身は天使かパッドかって”…システムオペレーターの皆さんが言っていたのを思い出して…」 「えっ…?」 「本当に熱心に書き込んでいらっしゃるものだから…つい」 確かに。 女神エイルに教えられて以降、フレイアはパッドを片時も離さなかった。講習や勉強の時はもちろん。休息時間や眠るその枕元にさえ置いておくほどだ。 「は…はあ…」 ペイオースの言葉に周りからも小さな笑いがこぼれる。当のフレイアは否定できず、かと言って肯定もできず…ただ恥ずかしそうにうつむくことしかできなかった。 「…みんなの前でわざわざ言わなくてもいいじゃないっ」 白亜の塔に暖かな陽の光が降り注ぐ。 庭園の中程にある泉のほとりまで勢いよく歩いて来たところで、おもむろに腰を下ろした。 「しかも…天使と比べるなんて失礼だわ」 緑深く生い茂る木々の間を吹き抜ける風は、フレイアの豊かな黄金色の髪を揺らしながら水色の空へと放たれていく。 光 輝 く 純 白
「レイディアントセティ」誰がなんと言おうが最高にして最強のパートナーであり…自分の半身だ。その呼び声に羽が踊った。“待ってました”と言わんばかりに勢いよく翼を広げ背中より天使が現れる。 「セティ!」 雪の様に白い髪をなびかせながら微笑みかける天使を、フレイアは愛しそうに抱き寄せる。 「ごめんね…ここのところ、ゆっくりお話できなくて…」 法術の暗記に講習などなど…日々勉強に追われ、なかなかゆとりある時間を過ごせていないのが現状だ。こうやって泉のほとりで天使と語らうなんて、準一級になって初めてのことかもしれない。 だが…フレイアは小さなため息をついた。 {?} 天使が心配そうにのぞき込む。 嬉しさに浸りきる事ができない。考えない様にしようとすればするほど、不安が広がっていってしまう。 「……こわい…の」 ぽつりとつぶやく。 “ハヴアマール”がいよいよすぐそこまで迫っていた。 生命そのものの尊重や、女神としての思想、思慮深い心…といった内面的な事柄を《巫女》に問われる“ハヴアマール”。点数だけでは評価できない…その者の本質を見極められる…とても重要かつ厳しい課題だ。当然そこで合格の印を受けなければ一級神の試験を受ける事すらできない。フレイアにとって、最初の難関だった。 「いったい…どんな問いを出されるのか…そればかりが気になって」 沈痛な面持ちの顔が水面に映る。 そのとき、頬に白い細い腕が優しく触れ…背後からそっと抱き締められた。 「…あ」 泉に反射する陽の光がキラキラと輝き二人を照らす。天使の心が染み込む様に身体へと溶けてゆく心地良さに瞳を閉じた。 {自信を持ってフレイア…あなたはあなたらしくいればいいのだから} 信じる力を与えてくれる優しい想い。 風が緑の葉をざわめかせながら足早に駆け抜けて行く。 「…らしく…ね」 なんだか気持ちが軽くなった。 そう。悩もうと悩むまいとハヴアマールはやって来る。同じ時を過ごすのならば、明るく前向きに過ごさねば損だ。 「ありがとう」 大いなる自然と天使に元気を貰い、フレイアはいつもの笑顔を取り戻していた。心に沈む負のエネルギーを追い出すかの様に大きく深呼吸をする。 「ね…セティ。お願いがあるんだけど」 さっきまでの落ち込みはどこへやら…何かを企むいたずらっこの様な光をたたえたエメラルドグリーンの瞳を天使へと向ける。 「一緒に写ってくれない?」 自分自身に負けるのは一番悔しいもの。 行くぞ〜私っ。 そう書き込まれたパッドの待ち受け画面には…屈託なく笑うフレイアと優しく微笑むレイディアントセティが寄り添って写っていた。 to be continued...
|
||||
This page is managed by TBS ANIMATION
©藤島康介・講談社/「お助け女神事務所」分室 Copyright© 1995-2024, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved. |TBSトップページ|サイトマップ| |