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<小説版>ああっ女神さまっ 初終 ―First End― 外伝
夢みる翼
EPISODE-1「オペレーションルーム」 ポーンと軽やかな音を立ててリフターが止まる。降り立ったオペレーションルームは、想像していた通り…いやそれ以上のものだった。 中央にはメインコントロールタワーが光を点滅させながら輝き、そこから出る幾筋ものラインがしなやかな枝の様に広がり、ユグドラシル・システムへとつながっている。その下には、電話とパネルが一体型となっている卵をくりぬいた様な形の椅子がいくつも浮かんでいて…まるで木に実る果実に見えた。 「まあ…いらっしゃい。女神エイル」 椅子から顔を出した女神が、来訪者に微笑む。 「ごきげんよう…お仕事中にごめんなさいね」 「いいえ。…お相手はできないのだけれど、ゆっくりしていらしてね」 りりりりりり…と突然電話が鳴り、女神は小さく会釈をするとまた仕事に戻っていった。その姿は、なんと凛々しく素敵なのだろう。感嘆のため息をもらし、食い入る様に見つめている耳元に、エイルは優しく声をかけた。 「初めてのオペレーションルームはいかが?…フレイア」 「は…い…」 それ以上言葉が出てこない。 まるで白磁の様に白く透き通った肌をさくら色に染め上げ、フレイアは喜びで叫びたくなる気持ちを必死に堪えていた。 “…ここが…困っているものを救済するオペレーションルーム。…一級神二種非限定の女神だけが座ることができる特別な場所…” 胸の前で祈る様に組まれた手に力を込め、輝く瞳で見つめ続けている。エイルに促されて部屋を出るまで、フレイアは微動だにすることができなかった。 「感激でした!」 白銀の回廊にこだまする。何も動けず、何も喋れず、質問ひとつできなかったのは心残りなのだが、それ以上に何故かとても満たされている。 「そう…それは、よかったわ。その思いや気が付いた事柄を忘れない様、パッドに記しておきなさい。後々とてもためになってよ」 「…パッド…?」 「ええ。様々な資料や本と一緒に渡されたでしょう」 そう言われて、やっと思い出した。一級神の仮免許…準一級神になった時に貰っていたもの…三界(天界、魔界、地上界)の色々な情報や文献が記録されたものだ。システムの端末にもなっているそのパッドは、誰しもが持てるものではない。二級神の中でもシステムに特別に携わるもの…そして一級神(準一級神も含む)と限られた者だけだった。 「え〜〜〜〜〜っ」 再び回廊に叫び声がこだまする。 「ものすごく厳重にしまった気がするっ」 部屋に戻ったフレイアは机の引き出しを必死に探し始めた。特別なもの故、大事に奥の方にしまいこんだ記憶がある。 ほどなくして、いぶし銀の薄いパッドが姿を現した。 「ああ…これこれ…よかった」 見つかって安堵する暇もなく、さっそく慣れない手つきで画面を操作すると…メモとして使える空のメモリー項目が表示された。 「ああっ…もっと早く知っていれば、女神エイルに師事する初日から書き込めたのに…」 気がつけばその期間も半分を過ぎている。 「いいわ。今日から! 初めてオペレーションルームに行った今日からがスタート」 確かに…本とにらめっこで、法術の術式や知識の記憶ばかりだったこの数カ月では、あまり書く事はなかったかもしれない。だが、今日からは主に実地研修だ。パッドデビューはタイムリーといえよう。 フレイアは、机の上に散乱した引き出しの中に納まるべき小物を乱暴に押しのけ、空いたスペースにパッドを置くと、一心不乱に書き込み始めた。 幸せを与える女神が…こんなに幸せでいいのかと思ってしまうくらい! 私もはやく、あの席に座れる様…がんばらなくてはっ。 でも… 残念なことがひとつだけ。 それは…女神ベルダンディーの席がやっぱり空いていたこと。 えっと…私が準一級になった頃だから…地上界に降りて、もうずいぶん経つわ。 ………わからない。 一級神の中の一級神と謳われ、運命の女神でもあるあの方が、どうして…? どうして、たったひとりの人間についていらっしゃるの? どうして、人間なんかに…。 いいわ!あの空席に絶対座ってみせるんだから! 絶対に一級神になって、二種の免許も取って、女神ベルダンディーの様になるんだから!! 「あっ!!」 フレイアは大きな声を上げた。 今日の出来事を書き込みながら、何げなく机の上に山積みになっていた本を見た途端、思い出したくない…でも忘れるわけにはいかない現実に直面する。 「癒しの法術の暗唱…明日だわ」 パッドをとりあえず横に置き、慌てて本を開き始める。 「女神エイルは、癒しの術には厳しいから…」 天空の星々は宝石の様に輝き、青白く光る月に華を添えている。 がんばれフレイア。…一級神の試験まであと六週間。 to be continued...
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