その他
Q. 人を殺してはいけないと法律にあるのに、どうして人にはそういう感情があるんですか? (中2・女の子)
A. お姉さん:あなたはどうしてそのように思ったのですか?
こども:殺人(さつじん)や誘拐(ゆうかい)のニュースを見たから。
中山先生:ひとつ最初に言っておきたいのは法律との関わりで言うとね、人間だけが「人を殺していけない」って決まっているんです。人間だけがそういうことをするし、そういう感情を持っている。だから、逆に言うと法律があるわけ。ほかの動物は、ただ腹が立ったとかで同じ種類の動物を殺したりはしないものね。
人間は人を殺してしまうことも確かにあります。そういう感情もあります。でも、それをそのまま自由にしておいて「人を殺してもいいよ」としておいたら大変でしょう? みんな生きていたい。だから、みんなで決めて「殺すのだけはやめようね」って宗教(しゅうきょう)でも法律でも決めたんです。宗教はもともと法律のもとになったようなところもありますけど…。
でも考えてみるとね、みんなでそういうことを決めたのも人間らしいことなんだよ。動物はそんなことを決めないわけだから。人間だから人を殺したい気持ちにもなるし、人間だから人を殺すのをやめようねというところもあるんです。
それに私が思うには、人間だけがする「もうひとつのこと」があるんです。それは自殺(じさつ)です。ほかの動物はしないでしょう? 人間はとても変な動物です。自分自身が生きているということについて考えて、たまに自分が生きているのが嫌になってしまうこともあるんです。それと同じように他の人が生きているのが嫌になってしまうこともあるんです。これは、とても良くないことだけど、それも人間らしいことのひとつなんだよね。とてもマイナスなことで良くないことだけど、人間が人間らしくあるひとつのゆえんなんだよね。
どうして人間はそんなふうに進化してきたのか。人間だって動物のひとつなのになんで同じ種類である人間を殺したり、殺そうと思ったりするようにできあがってきたのでしょう? それは、生物・理科の中でも大変な問題ですよね。
柳田先生:そうですね。ただ、進化にはいつもムダがでるんです。役に立たない進化があるんですね。たとえば盲腸(もうちょう)。これは他の動物にもあって、多くの動物達にとっては役に立っているモノなんだけど、人間にとっては役に立たずに、かえってそこが病気になってしまいます。
常にそうですけど、進化は「何かの目的があって、みんながそっちに向かっていった」ということではなく、「色々なものがバラバラに生まれてきて、その中で役に立つものが生き残ってきた」ということが言えるんです。ですから、もしかすると人間の「人を殺すという感情」は進化の中の盲腸かもしれません。
中山先生:あなたは、一生懸命生きている人を見たら応援したいなぁと思うでしょう。とてもむずかしいことに立ち向かっている人をおうえんしたい気持ちになるよね。それも人間だけの感情なんです。
だから、そういった感情がマイナスのほうに行くと「自殺したいなぁ」とか、「人を殺したいなぁ」という気持ちになってしまうんだと思うんだよ。人間は感情があるから、他の動物の頂点に立てたと思うけど、さっき理科雄先生がおっしゃったとおり、ムダで、無いほうがいいという感情もいっしょに育ってしまったんだと思います。
だから、みんなでけんかしたり、殺しあったりする感情はもってるなぁということは思っていなくてはいけないけど、それを伸ばすようなことはないように生きていくことが大切だと思います。

エッセイスト:中山千夏先生/理科の先生:柳田理科雄 先生

[戻る]