森田先生:これは私に言わせて下さい。羽生善治四冠です。だって、田中先生だけじゃないですか?
羽生さんに勝ち越しているのは……。
田中先生:僕だけじゃないですよ。もう一人、一局だけやって勝った人がいました。ただ、何回かやって、勝ってるっていうのは、私だけかも知れないですね。
森田先生:今をときめく羽生さんに勝ち越しているんですよ。「相性がいい」と言う以外の何者でもないですよ。え?実力?(笑)
田中先生:でもね、相性がいいっていうのは、私もあるけど、みんなにもあるんだ。コンピューターと違うところは、生身(なまみ)の人間同士が戦っていると、Aの人はBには強いけど、Bの人はCに強くて、そのCの人はAには強いっていう形になるの。
そういう中でプロの人たちはみんな戦っているんですよ。そのプロの中を総合的に見ると、今一番勝っているのはやっぱり羽生四冠王かな。
こども:B級の人だとみんな相性がいいんじゃないんですか?
田中先生:プロの世界は順位戦で、A級とかB級とか色々あるんだけど、私はA級から3度落とされているのね。4度目昇級をしたんだけど、B級では負け越してないよ。将棋って「差し手(さして)」にいろんな可能性があるのね。
棋風(きふう)と言うんだけど、好きな手、どうしても読み切れない時には、そんな手を差すの。例えばこれからのキミにも、どの大学に行こうか、どの会社に就職しようか、っていろんな人生があるように、将棋にもいろんな差し方があるんだよ。
その選び方によって、相性の良し悪しが出てくるのかなって私は思います。だからキミも将棋をしていると、好きな手がいっぱい出て来ると思うんだ。で、その手をやってみて、すごくうまくいく相手と全然通じない相手がいると思うから、そういう事で将棋を楽しんでもらえればいいなと思います。
将棋棋士・田中 寅彦 先生
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