診察が一段落した手島伯朗の元に、矢神楓から電話がかかってきたのは、下痢気味の猫を連れてきたジーンズスカートの女性を見送って診察が一段落した時だった。助手の蔭山元実からスマートフォンを受け取り電話に出ると、楓の慌てた声が聞こえてきた。

「お義兄様、お仕事中だったらすみません。大変な事件が起きまして。」
「事件?」

伯朗は当惑し、それから元実に聞こえないように声を潜めた。
「明人の失踪ー君の夫が行方不明になる以上にどんな事件が起きるっていうんだ」
「私もまだ詳しくはわからないんですけど、矢神の御屋敷の保管庫が荒らされたらしいんです。これは明人君の失踪の重要な手がかりの臭いがします」

荒らされた、という不穏な言葉に一瞬背筋が寒くなる思いがした。