コラム

2017年11月26日更新 text by 寺田辰朗

第8回鈴木の出場で1区の注目度は過去最高に
3区はエース決戦の舞台であり、クイーンズエイトへの最大関門

内容

1区への注目度が、クイーンズ駅伝史上最高に達している。
宮城開催となって距離が伸びて7kmとなり、上り坂も多く差がつきやすいため1区の重要度は上がってきた。過去にもマラソンの尾崎好美(第一生命グループ)や藤永佳子(資生堂)、トラックの杉原加代(デンソー)らの五輪&世界陸上代表が出場してきたが、どちらかといえば1区のスペシャリスト的な選手や、若手有望選手の起用が多い区間だった。
それが今年は、五輪&世界陸上3年連続代表の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)の出場で、様相が大きく変わろうとしている。世界陸上1万m10位の力がある鈴木に対し、他チームはつくのか、後方の集団でレースを進めるのか、の選択を迫られることになる。

最長区間の3区の焦点は、高島由香(資生堂)の4年連続区間賞なるかどうか。連続の回数では3回の高島が過去最多。通算回数でも4回となれば、福士加代子(ワコール)の5回に次いで2番目に多い区間賞数となる。
3区はクイーンズエイトに入れるかどうかの目安にもなる。昨年は8位入賞チーム中7チームが、3区終了時点で8位以内に入っていた。
どの区間もまさに百花繚乱。各区間の注目選手と話題を紹介する。

1区(7.0km):鈴木、一山がハイペースに持ち込んでも追走する竹中、木村、森田姉ら

鈴木が最初からハイペースに持ち込み差を広げにかかるのか、それとも前半は集団でレースを進めるのか。
レース前日の鈴木は「責任のある区間。チームにいい流れを作りたい」という表現で意欲を示し、具体的な展開については触れなかった。上り下りが続くコースで、鈴木といえども4~5kmまでは飛び出せない、という見方をする指導者も多い。反対に、普通に走れば走力の違いが最初から現れる、という意見もある。
前回区間2位の竹中理沙(資生堂)は「スローペースよりも行ってくれた方がありがたいです。自分もしっかりと区間賞争いに加わります」と、速い展開を歓迎する。
前回区間賞の一山麻緒(ワコール)も積極的な走りが身上。1区と3区の福士加代子でできるだけ先行したいチーム事情もあり、ハイペースを望んでいる。鈴木のペース次第では、一山が前に出る展開もありそうだ。

ユニバーサルエンターテインメントも前回2区区間賞の木村友香を起用し、鈴木&一山に対抗する。昨年の日本選手権は1500mで優勝したスピードランナーで、今年10月の国体5000mでも優勝し現在絶好調だ。1500mでは先頭を積極的に走るが、7kmの距離の経験は少ない。前半は集団で走り、後半に勝負を仕掛ける。
森田香織(パナソニック)も鈴木、一山に付くと、チームスタッフは話している。
プリンセス駅伝区間賞の森智香子(積水化学)は、ペースを見て判断するという。「最初から速ければ間を開けて走ることになるかもしれません。臨機応変に対応して、自分の持ち味を発揮したい」
豊田自動織機の長谷川重夫監督も、「2人は強いので、菅野(七虹)は冷静にレース運びをすると思います。20秒差だったら上出来」と、今季のテーマである“確実な駅伝”をする予定だ。
傾向として“準エース”や、“スピード型のエース”が多くなっているが、第一生命グループは高卒新人の嵯峨山佳菜未を起用。故障者が出た影響もあるが、“将来のエース候補”に1区を託してきた。

2区(3.9km):思いを込めて走る木崎と宇都宮。高卒新人の渡邊と原田にも注目

短い距離の区間だが、この区間で後れることは絶対に避けないといけない。
ダイハツは、マラソンで代表歴のある木崎良子を起用。故障していた期間が長く、5区で2年連続区間賞を取っていた頃の力はないが、かつてはトラックでもアジア大会のトラック種目に出場したスピードランナーだ。このあとマラソンを走る可能性もあるが、実業団駅伝はこの大会を最後に休養に入る。

宇都宮恵理(JP日本郵政グループ)は、同じ宮城開催の全日本大学女子駅伝で、4年間補欠だった。実業団1年目の昨年も、5区の付き添いをしていた。思いのこもった走りをする。
プリンセス駅伝2区区間賞の渡邊奈々美(パナソニック)と、原田紋里(第一生命グループ)は高卒新人。2人とも高校時代に全国大会で活躍した実績はないが、区間上位進出も期待できる。原田は「自己新をばんばん出していて気になる選手」と、渡邊の名前を挙げていた。
1500m型の選手としては薮下明音(豊田自動織機)、西脇舞(天満屋)、渋谷璃沙(ヤマダ電機)らが出場する。筑波大卒ルーキーの秋山桃子も、高校時代に1500mで活躍していた。薮下は1万mでも32分台前半の記録を持ち、3.9kmという距離でも力を発揮する。

3区(10.9km):高島が4年連続区間賞に挑戦。今年のタイトル獲得者、代表経験選手も多数登場

エースの競演が見られる区間。駅伝の1区間ではあるが、女子長距離界のタイトルの1つと言ってもいい。
3年連続区間賞の高島由香(資生堂)が今年も「4年連続区間賞と区間新」を目標としている。風向きにもよるが、5km15分30秒通過が目安だ。後半の戦力が落ちるだけに、チームとしても1区の竹中と3区の高島で、できる限りリードを奪いたい。

日本選手権1万m優勝の松田瑞生(ダイハツ)、5000m優勝の鍋島莉奈(JP日本郵政グループ)、全日本実業団陸上1万m優勝の松崎璃子(積水化学)、全日本実業団陸上5000m日本人トップの福田有以(豊田自動織機)と、今年のタイトル(日本人1位)獲得者も顔を揃えた。
福田はプリンセス駅伝3区では松崎の速い入りに対応できなかったが、この1カ月でスピードで押して行く練習を行い、本来のスピードを生かす準備ができている。
松崎はプリンセス駅伝の後半で失速し、2位から4位にチームの順位を落としてしまった。その後の対策を質問されると、次のような答えだった。
「この1カ月はずっと、尾西(美咲・積水化学)先輩と最後のタスキリレーをする座は譲らないぞ、ということだけを考えて来ました。7年間で10回以上、尾西先輩とタスキリレーをしてきましたから」
尾西はクイーンズ駅伝は今回が最後となる。気持ちが入りすぎて、力みとなってしまうことが多い松崎だが、競技とは別のことを意識することで力を発揮しようとしているようだ。

五輪&世界陸上の代表も多い。
今年のロンドン世界陸上では鍋島、松田、上原美幸(第一生命グループ)が、昨年のリオ五輪では高島、上原が代表だった。2015年の北京世界陸上には西原加純(ヤマダ電機)、高島、小原怜(天満屋)、鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)が出場した。福士加代子(ワコール)は2003年の世界陸上からリオ五輪マラソンまで、代表を続けて来たレジェンドだ。永山忠幸監督は「6~7割の状態で、後ろでタスキをもらうと以前のような爆発的な走りができるかわからないが、レジェンドの走りを見せてほしい」と期待する。
プリンセス駅伝3区区間賞の堀優花(パナソニック)も、本人が希望したエース区間に登場する。五輪&世界陸上代表はないが、今年7月のアジア選手権1万mでは2位になるなど、個人種目の実績も出し始めた。
鷲見とは豊川高の同級生で、2人が高校2年時は、日本郵政5区の関根花観も1学年先輩にいて、豊川高は全国高校駅伝に優勝した。
鷲見は「ジョッグでも同じ場所を別々に走ることが多かったのですが、3人で自然とペースが上がって良い練習になりました」と振り返る。堀は「いつか日本選手権で、2人で1・2位を取ろうと話しています。やっと鷲見に追いついてきました」と嬉しそうに話した。

4区(3.6km):ヤマダ電機が石井を起用。ポイントとなる可能性も

外国人の出場が認められている区間だが、距離は一番短く、チーム6番目の選手が起用されることが多い。調子がいまひとつでこの区間に回るケースもある。走ってみなければどちらに転ぶかわからない選手も多く、ある意味“勝敗のポイント”となる可能性がある区間だ。
ヤマダ電機が前回3区を走った石井寿美を起用してきた。今季は昨年ほど調子が上がらないが、1万mで31分40秒台を持つ選手で、上り下りにも強い。選手層の厚さを生かし、この区間で優位に立とうとする森川賢一監督の戦略だ。
JP日本郵政グループ、ダイハツ、積水化学、ワコール、資生堂といったチームは3区でトップに立つ可能性があり、4区の踏ん張りが重要になる。

日本郵政は力が落ちる区間と言われているが、副キャプテンの柴田千歳が調子を上げてきた。ダイハツは大物新人の大森菜月だが、故障明けの試合。積水化学もリオ五輪代表だった尾西だが、大会前に軽い故障があった。
ワコールは前回5区で、高卒新人ながら区間7位で順位をキープする走りを見せた小指有未で、故障期間が長く今年は4区になった。資生堂は中距離選手の須永千尋がどんな走りを見せるか。

5区(10.0km):関根が優勝へだめ押しの走りをするか、前田が逆転の快走を見せるか。マラソンランナーが多数登場

距離は3区よりも短いが、アップダウンが多く向かい風となることも多い。タイム差がつきやすい区間だけに、トップを走っていても気が抜けない。昨年は宮城開催になって初めて、5区で逆転劇が演じられた。
リオ五輪1万m代表の関根花観(JP日本郵政グループ)と、北京世界陸上マラソン代表だった前田彩里(ダイハツ)がこの区間の双璧だろう。関根が良い状態なら、日本郵政がリードを守るか逆転する。

前田がいるダイハツも逆転の可能性を持つ。
どちらのチームも、4区終了時のポジションで、代表経験コンビの走り方も変わってくる。
ヤマダ電機が前回5区区間2位の筒井咲帆、第一生命グループが前回6区区間2位の佐々木文華。筒井はトラックのスピードがあり、玉川大卒2年目の佐々木は、ブレイクする可能性がある選手。中村萌乃(ユニバーサル)は1万mで31分台を持ち、今季後半はレースに出ていなかったが、駅伝に向けて復調している。
コース特性からマラソンランナーが多く起用される。桑原彩(積水化学)、沼田未知(豊田自動織機)の快走があれば、チームの優勝につながる区間だろう。前田穂南(天満屋)、堀江美里(ノーリツ)、水口侑子(デンソー)、宮内宏子(ホクレン)らは、チームのシード権獲得がかかった走りになる可能性がある。

6区(6.795km):日本郵政は“駅伝女”の寺内。マラソンの重友と中距離の陣内

勝負を最終的に決定するアンカー区間。
JP日本郵政グループは昨年のフィニッシュテープを切った寺内希で、チーム内では“駅伝女”と言われるほど、駅伝では外したことがない。前回は区間順位では2番目を走る第一生命・佐々木に敗れたが、タスキを受けたときの17秒の貯金を利用して逃げ切った。
五輪&世界陸上の代表歴があるのは、天満屋の重友梨佐と九電工の陣内綾子。ただ、ロンドン世界陸上マラソンに出場した重友は、調子が上がっていない。陣内は中距離種目の代表。2人とも走ってみないとわからない。九電工の藤野監督によれば、陣内は5000mを15分台走る練習はできているという。
勝負強さを見込まれて起用されたのが、ヤマダ電機の竹地志帆と豊田自動織機の林田みさき。タスキをもらう位置次第だが、最終区逆転という劇的シーンを演じる可能性もある。

各区間の見どころと注目選手、予想できる展開を紹介してきた。だが実際には、思いもよらないレースが繰り広げられる可能性もある。昨年日本郵政が優勝することも、鍋島がMVPとなる快走を見せることも、誰も予想していなかった。
予測不能の駅伝ドラマが、12時15分に幕を切って落とされる。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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