監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”|日曜劇場『ブラックペアン』

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監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”
本作の医療監修を担当している山岸先生に、
「ブラックペアン」にまつわるさまざまなギモン
お答えしていただくコーナーです

vol.31最終話医学的解説

最終回、終わってしまいました。書きたいことがたくさんあるのですが、まずは飯沼さんの病気について解説していきます。

左鎖骨下動脈起始部瘤

飯沼さんの手術のシェーマ(手術の絵)を描いてみました。
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佐伯先生が行った飯沼さんの手術の手術記事

心臓から出た大動脈は上行大動脈、大動脈弓部となり、そこで右腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈の三本の枝を出し、下行大動脈となりお腹へ行きます。
飯沼さんはこの左鎖骨下動脈の根本(起始部)の動脈瘤で、最初に急変したときは、この動脈瘤が破れかけていた状態です(切迫破裂)。
若かりし頃の佐伯先生はこの動脈瘤を切除し、大動脈弓部側は縫合止血できたのですが、左鎖骨下動脈の根本は深すぎてどうしても処置できず、ペアンで止血して、ペアンは胸の中にしまっておいたのです。確かにこの部分は若干の奇形があると非常に深い時があり、瘤が大きい時は、かなり遠くなってしまうので、止血困難となることがあります。またその名前の通り、鎖骨下動脈は、鎖骨の下にあり、鎖骨が邪魔になり縫合止血できなくなることもあります。ほとんどの場合は処置できるのですが、飯沼さんの場合はいろんな状況が重なり、止血困難であったと思われます。左鎖骨下動脈を遮断すると、左手に行く血流が弱くなってしまうため、右の鎖骨下動脈と左の鎖骨下動脈に人工血管でバイパスをしないといけません(右の鎖骨下動脈の血流を人工血管を通して左の鎖骨下動脈に流します)。
佐伯教授がアフリカに行って日本にいないときに、飯沼さんの処置を渡海一郎先生が行ったのですが、この時はバイパスに使用した人工血管周囲が感染していて、③の傷を再度開け、感染した組織を採っていたら、たまたま胸腔が開いてペアンが見えてしまったという流れです。で、その時のレントゲンを黒崎先生に見られてしまった。その後渡海一郎先生は東城大学を追われることとなります。
月日が経ち、飯沼さんの体内のペアンが徐々に劣化して緩んできてしまい、左鎖骨下動脈の起始部から出血してきてしまいました。飯沼さんは東城大学病院に入院となります。それを渡海先生はペアンの周囲の血管が傷つき、出血してきていると思った。
手術記事を見ていただくとわかると思いますが、ペアンと大動脈弓部は非常に近くにあります。ペアンとその周囲がひどく癒着していた(くっついていた)ために、渡海先生がペアンを外したら大動脈弓部も損傷し、大出血したということです。その前の出血は、ペアンの周囲の血管からの出血であると思います。
佐伯教授は人工心肺を回し、体を冷却して、循環停止(以前の解説をご参照ください)をして大動脈弓部を縫合し、縫合し終わるくらいで、復温し(体を温め)、心臓が動き出し、最後に深くて止血できない左鎖骨下動脈起始部(根本)を再度ブラックペアンで止血した手術でした。2回目は癒着していたので、この部分の縫合止血はさらに難しかったかもしれません。
尚、佐伯教授が手術中に渡海先生に話をしているシーンは、人工心肺が回るまでの時間は出血箇所を抑えながら心臓マッサージをするしかなく、また人工心肺が回ったら、出血箇所を抑えながら、体温が下がる、冷えるのを待ちます。冷えたら、循環停止して損傷した弓部を縫合し出しますので、リアルでも比較的喋る余裕があるシーンです。我々も時に「冷え待ち」と言って、体温が下がるまでじっと待つことがあります。
ちょっとペアンで止血ってあり得ないのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、少し前には、パーマネントクランプ(permanent clamp;永久的な遮断)と言って、止血できないところを、止血鉗子で止血して、バイパスをするような手術があったようですので、今回の事はあながち非現実的ではありません。また胸の中は大半が肺なのですが、肺は非常に柔らかいので、ペアンが胸の中にあっても特に支障はなかったのだろうと思います。実際、東南アジアのどこかの国で、何十年も前に入ってしまったペアンが体から出てきた事もあったとか。

佐伯教授の大動脈解離の手術

大動脈解離の解説は1話の解説をご参照ください。
今回は佐伯教授を助けるため、皆が力を合わせ、命を助けるためなら何でもやるという姿勢が凄く良く伝わるシーンでした。私がそれを最も強く感じたのは猫田さんが人工心肺を回し始めたところです。
「猫、心肺の準備は?」
「もうちょっとです。」
「できたら回して」
「今、回します」と言ってチューブ鉗子を外す場面。
通常は医者の仕事ですが、命を助けるためなら、責任問題がどうとか関係ないのです。出来ないとか言わず、やらなければならない事がある。渡海先生、高階先生、世良先生の手術シーンもすごくリアルなのですが、猫田さんの仕草もすごくリアルでプロフェッショナルです。凄くカッコいいシーンでした。

普通の医者

渡海先生の家を訪れた世良先生は渡海先生のお母さんにこう問います。
「渡海先生のお父さんはどんなお医者さんだったんですか?」
「どんなって、普通のお医者さん。患者さん一人一人に、常に一生懸命で、何日もうちに帰ってこない時があった。
渡海一郎先生は、息子にこう言います。
「お前はそのままでいい。普通の医者になれ。凡人こそいい医者なんだ。」
術後の佐伯教授の病室で、去り際に渡海先生はこう言います。
「そのままでいい。普通でいい。医者は患者のことだけを考えろ。救え、ただ人を救え、俺の尊敬する、尊敬する医者の言葉です。」
普通のお医者さんってどんなでしょう。
働き方改革という言葉があらゆる職場に蔓延してきて、新臨床研修制度の影響で楽な仕事しかしなくなった多くの若い医者たちは、大きな勘違いして、自分たちも働き方改革しなくてはと思い込み、どんどん、どんどん仕事をしなくなってきています。
効率よく仕事するとか、テキパキ時間内に仕事を終わらせて、時間外の仕事、人の仕事は絶対やらない、少しでも大変になると、仕事が多いとキレだす。担当患者が調子悪くても当直医に任せる。自分の入った手術の患者さんの管理もせず、当直医の仕事と割り切り、そそくさと家に帰る。早く家に帰ってゆっくり休む、みんなで飲みに行く、日曜日は趣味に勤しむ。休みがあってこそ日頃の仕事も効率的にでき、人生充実する。そんな若い医者たちが増え、彼らは病院に居続け仕事をする医師をどこか、非効率的な奴らでセンスがないとバカにしている。
私が心臓外科の研修をし始めた時、先輩方は全く休みませんでした。当直表の下には山岸は修行中につき休みなし、と書かれていましたし、それが当たり前であると自分でも思っていました。毎日毎日手術があって、毎日毎日術後の患者さんの様子を観察していました。空いた時間は縫合と糸結びの練習をして、病院で寝泊まりするのが当たり前でありました。お前は早く家に帰れと言われるほど、病院にいました。
思い入れのある患者さんが亡くなると、泣きました。御家族の前で泣きました。自分に何かできることはなかったか、自分はもう絶対にこういうことは繰り返したくない。とにかく何が悪いのか考えて、勉強して、それこそ論文を読みあさり、とにかく手術の練習をしました。
「どんなって、普通のお医者さん。患者さん一人一人に、常に一生懸命で、何日もうちに帰ってこない時があった。」
渡海先生のお母さんの言葉は、実は自分の母親の言葉と酷似しています。私の父親も心臓外科医でした。私の母親も同じようなことを言っていました。
昔は、みんな医者はそうだったんです。いつの頃からか、多くの医者は患者さんを昼夜問わずにずっと近くで診ることができるという特権を、過重労働と思い始め、こんなにもダイレクトに人のために役立てる仕事を、とにかく効率よく、センスよくこなそうとしている。
患者さんにとって担当医は一人しかいません。手術も一回しかありません。どの患者さんも世界で一番できる医者に手術をしてもらいたいものです。世界で一番を目指す人が効率よく仕事こなすとかしていますか?金メダリスト、世界チャンピオンが効率よく、センスよく練習していますか?
私は医者1年目の最初に循環器内科の部長に「俺らは命を削って仕事をしている。そこに誇りを持て。」と言われました。
命を捨てて患者を守った渡海一郎先生のように、命をかけて患者を救った佐伯教授のように、命を削って仕事をしていきたい。
手術成功率100%の渡海先生の天才的な手術手技は、亡き父の無念を晴らすという強い気持ちから生まれました。あの一見冷徹そうな渡海先生は、誰よりも患者さんのことを思い、父親のことを思っていました。思っているからこそ、尋常じゃない狂気的な縫合と糸結びの練習をして技術を磨き、天才の領域まで到達した。最後は人で、最後は人の気持ちであるということを、誰よりも強く思っていると渡海先生は自身で示していました。「こういう時の声が届くぞ、声かけてやれ」と。
命を助けたいという強い気持ちを持って、命を削って患者さんのために尽くしたい。医師として当たり前で、普通の姿勢を「ブラックペアン」は教えてくれました。
今回で医学的解説は終わります。次回は「あとがき」です。

PROFILE

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イムス東京葛飾総合病院 
心臓血管外科
医長 山岸俊介
日本外科学会外科専門医
日本心臓血管外科学会専門医
2006年慶應義塾大学医学部卒業。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
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