監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”|日曜劇場『ブラックペアン』

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監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”
本作の医療監修を担当している山岸先生に、
「ブラックペアン」にまつわるさまざまなギモン
お答えしていただくコーナーです

vol.164話医学的解説②

前回の続きです。急性MR(僧帽弁閉鎖不全症)の患者さんが緊急手術になります。

感染性心内膜炎とは

高階先生は手術直前の経食道心臓エコー検査で僧帽弁にベジテーションを見つけます。ベジテーションとはvegetationと書いて日本語だと疣贅(ゆうぜい)と言います。簡単に言うと菌の塊です。僧帽弁閉鎖不全症の原因の一つに感染性心内膜炎という病気があるのですが、この感染性心内膜炎は細菌がどこからか血液の中に入り込み(歯の治療や手術等によって入ることが多いと言われます)、心臓の内側の膜(特に弁の膜などが多いいです)に菌が住み着いてしまい、組織を破壊してしまう病気です。組織を破壊してそこに菌がどんどん繁殖すると菌の塊(疣贅;ベジテーション)ができてしまいます。弁は破壊されてしまうので、扉が虫に食われてしまうのと一緒で、うまく閉じることができないのです。
この心臓の内膜に細菌がくっついてしまうのには、ある程度のきっかけが必要で健康な心臓の人にはほとんどくっつかないと言われています(歯医者に行くたびに感染性心内膜炎を起こしてしまったら大変です)。もともと僧帽弁閉鎖不全症があったり、大動脈弁の一部が弱く逆流があったり等、心臓の中に何らかの原因で乱流が起こっていると、そこに菌がつきやすいと言われています。
最初の心エコーではわからなかったの?という疑問が生じるとも思いますが、病棟で行った経胸壁心臓エコー検査(胸にあてて行う検査)よりも、手術室で行う経食道心臓エコー検査(口の中からエコーを食道に入れて行う検査)の方がより僧帽弁が見やすいので、十分にシチュエーションとしてはあり得る展開です。
ここで菌の塊がある場合、そこにスナイプで人工弁を入れてしまうと、菌の塊を潰してしまい、菌が全身に飛んで行ってしまいます。ひどい場合には脳梗塞等を起こしてしまい、脳神経障害が出てしまいます。この場合は早急に、菌の塊を切除しなければなりませんので、スナイプによる人工弁置換はできないこととなります。
そこで高階先生は普通の正中開胸の僧帽弁手術に切り替えようとするのですが、
「大動脈が石灰化していて心臓を止めることもできない」
と言います。
これも心臓外科医あるあるで、かなりマニアックな発言です。

心臓手術の実際

この発言を説明するために一般的な心臓弁膜症手術がどう行われるかを説明します。通常の僧帽弁手術を含めた弁の手術は心臓を止めて行います。以前も少し述べましたが、心臓と肺の代わりになる人工心肺という機械に静脈(右房だったり、上大静脈や下大静脈)から血液(静脈血:赤黒い血液)を脱血(血液を抜くこと)し人工の肺で酸素を吹き付け、動脈(大動脈や大腿動脈)に酸素化された血液(赤い血液)を送血(血液を送ること)します。これではまだ、心臓の中には血液がたくさんあり、ドクドクと心臓も動いてますので、上行大動脈という心臓から出てすぐの大動脈を遮断鉗子という管を挟む道具で遮断します。そこで心筋保護液という心臓の動きを止めて保護してくれる液体を冠動脈に注入して心臓を止め保護するのです。心臓が止まった後、心臓の中の血液を吸引(サクション)で吸えば、心臓の中の血液はなくなり、心臓の中を修理しやすくなります。心臓を止めて大丈夫なの?と思われるかもしれませんが、人工心肺が回っているので、心臓から血液が出なくても、全身に酸素を含んだ血液が供給されているので大丈夫です。修理が終わったら大動脈の遮断を解除します。すると冠動脈に血液が流れて、心臓は再び動き出します。
ということを踏まえて先ほどの高階先生の
「大動脈が石灰化していて心臓を止めることもできない」
という発言を見てみましょう。動脈は糖尿病やタバコ、ストレス、高脂血症、肥満等々があると、硬くなってきてしまい、しまいには石灰化といって、白くカチカチになってしまうことがあります。上行大動脈もカチカチになることがありますが、その大動脈を遮断鉗子でバキバキと遮断したら、どうなるでしょう。中の石灰化した動脈の壁がボロボロと落ちてしまい、そのカスが全身に飛んでしまいます。こうなると脳梗塞などが起こってしまいますので、カチカチの大動脈は遮断できないのです(あまりにも硬いと物理的に遮断できないこともあります)。遮断できないと、心臓から出てすぐにある冠動脈に心筋保護液を注入することはできません。血液がバンバン流れているので、心筋保護液が薄まってしまい、さらに全身に流れてしまうからです。
そこで高階先生以下皆が思いついたのが佐伯式です。
心臓を動かしたまま僧帽弁の手術をする佐伯式がこのシチュエーションでは最良の手術になるのです。
実際この硬い大動脈にはどう対処したらいいか問題は、学会でも良く話題になっています。硬い大動脈を人工血管に取り替えてしまうとか、心室細動という不整脈をわざと起こして行うとか、風船で血流を遮断するとか、それこそ佐伯式を行うとか…。
で、渡海先生と電話口で世良先生が話している時、血圧が下がり
「敗血症性ショックだ。ノルアド、ボリューム入れて」と高階先生は指示します。
敗血症とは、血が負けると書きますが、簡単に言うと、血液の中に菌が入ってしまい、暴れ出してしまう状態をいいます。暴れていない状態を菌血症といいますが、敗血症は菌に血液の免疫力が負けて、高熱が出たり、血圧が下がってしまったり、呼吸機能が弱まったりする状態です。敗血症が原因で血圧が下がってしまう状態を敗血症性ショックといいます。敗血症性ショックになると、全身の血管が広がってしまいますのでノルアドレナリンという血管収縮薬によって血管を収縮させて、さらに高度に脱水状態になりますのでボリュームつまり輸液をたくさん入れる必要があります。

佐伯教授、渡海先生の登場シーン

渡海先生は結局来ず、佐伯先生が登場し、佐伯式で患者さんを救います。
「では感染部位を切除して弁形成を行う」
「やっぱりすごい。本当にこの人は神様だ」
神がかった手技であっという間に弁形成を行ってしまいました。
この佐伯教授の手術室への登場シーンですが、両手のひらを下に向けて、ゆっくりと登場します。渡海先生は手のひらを自分側に向けて、肩くらいの位置で登場してきます。我々外科医は手を洗い、手を消毒して手術室に入りガウンを着ますが、その手術室に入ってくる時の出で立ちは様々で、手をパンパン叩いてくる先生や、ゆらゆらと手を揺らしながら、消毒を乾かしながら登場する先生などいろいろいます。あの佐伯教授の登場シーンと全く同じ登場の仕方をする先生がいました。私が1年目の時の心臓外科の部長の先生がそうでした。手術室にまさにあの格好で入ってきて、ガウンを着るのですが、手術室に入ってきた時の緊張感というか、威圧感は恐ろしく、別に怒るとか、機嫌が悪いとかは全くないのですが、他を圧倒する抑圧感は、自分が今まで感じたことがないものでした。
撮影が始まる前に1話の手術シーンのリハーサルの時に内野さんと相談したのですが、いろいろな登場の仕方がありますが…といろいろやってみたところ非常にあの登場の仕方を気に入っていただけました。
渡海先生の登場シーンのあのポーズは、二宮さん本人も言っているようにいわゆるブラックペアンポーズで、佐伯教授と同様、他を圧倒する抑圧感を持ち、悪魔的であり、切れ味の鋭さ、緻密で精緻的手技の象徴であります。一方佐伯教授の登場シーンは、鉄人かつ哲人の抑制が効いていて、他のすべての外科医が言葉を失い手技に見入るほどの圧倒的なパワーの象徴のように感じます。
渡海先生は密かにブラックペアンポーズの流行を狙っているらしいですよ。僕はすでに影響され、あのブラックペアンポーズで手術室に入っています。
次回は小春ちゃんの手術の解説です。

PROFILE

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イムス東京葛飾総合病院 
心臓血管外科
医長 山岸俊介
日本外科学会外科専門医
日本心臓血管外科学会専門医
2006年慶應義塾大学医学部卒業。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
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