寺田的世陸別視点

第8回8月24日(金)

陸上の金メダル第1号は園田と井上が登場する男子マラソンか
ポイントとなる選手のメンタルと坂の走り方

陸上競技最初の種目は男子マラソン。
日本からは井上大仁(MHPS)と園田隼(黒崎播磨)が出場する。
井上は参加選手中最高の2時間06分54秒の自己記録を持ち、日本勢としては32年ぶり金メダルの期待がかけられている。
自己記録ではA・アビドゥ(バーレーン)が2時間08分32秒で続く。今年のローマ・マラソンで2位になったときの記録で、日本勢にとっては一番の強敵だろう。

不気味なのはもう1人のバーレーン選手、E・エラバッシだ。
すでに34歳で自己記録も2時間10分57秒だが、前回の仁川大会10000mの金メダリスト。トラックのスピードは侮れない。昨年のびわ湖マラソンでは56位と崩れているので心配する選手ではないのかもしれないが、勝負どころで先頭集団にいたら警戒すべき選手。
2時間08分50秒と参加選手中3番目の記録を持つS・O・バトオチル(モンゴル)も、リオ五輪は92位、昨年のロンドン世界陸上は48位と以前の力はない。
北朝鮮コンビが2時間12分台の記録を持つが、そのうちの1人、パク・チョルが2015年の北京世界陸上で11位、翌年のリオ五輪で27位。最近の動向がわからないので、やはり不気味な存在だ。

井上は7月のボルダー合宿中に、色々なレース展開を考えながら練習した。
「バーレーンやカタールのアフリカ出身選手と、どう競り合うかを考えています。どこで抜け出して、あわよくば独走に持ち込めるか」
重要になるのはバーレーン・コンビの余力を、どう判断するか。これは事前にどうこう言えることではなく、選手自身が走りながら相手の様子をうかがうしかない。あるいは、相手のことは気にせず、自身の余力でスパート地点を決めるか。
その際に重要となるのは、井上のメンタルだ。今年2月の東京マラソンで2時間06分54秒を出した時は、33kmで先頭集団から離れてしまった。井上は「自重してしまった。ついて行ったら展開が変わったかもしれない」という。日本記録以上のペースで、体も限界だったのは確かだが、気持ちの持ち方で動きも変わってくるというのだ。
アジア大会でその教訓を応用するとしたら、どう走るか。井上本人も言うように、今回の相手なら、どこかで独走に持ち込むことも十分あり得る。
男子の前回金メダルは1986年ソウル大会の中山竹通で、そのときも独走だった。

園田も今回は、かなり良い練習ができたようだ。
黒崎播磨の澁谷明憲監督は「しっかり疲労も抜きながら、今回の練習量が一番多い」とアジア大会に向けてのマラソン練習を振り返った。九重高原の合宿では片道10kmを、断続的だがずっと上り続けるコースを2往復する40km走も行った。「何があっても崩れない体ができた」と、澁谷監督は自信を見せる。

コースはゲロラ・ブン・カルノ・スタジアムからほぼ直線で10km北上し、折り返すコースを2往復する。目に見えた坂は5km手前に約300mある。2往復するので、北上する5kmと25kmが下りで、南下してくる15kmと35kmが上りになる。
だがコースを下見した高橋尚子さんは“普通の坂”とは少し違うのだと言う。
「目で見てわかる坂は300mくらいなのですが、その後も目ではわからないくらいゆるやかに上っています。頭では坂が終わったと思って走っていると、体の感覚とは違ってきてしまうんです。選手は認識と感覚が違うと不安になってしまうもの。そこは注意しないといけないところですが、逆に仕掛けどころかもしれません」

32年前のような独走劇はあるのか。
高橋さんが指摘する坂を上り終わったカ所で仕掛けがあるのか。
ワクワクしながら戦況を見守ろう。

寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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