寺田的世陸別視点

第24回9月3日(月)

アジア大会陸上競技総括
日本は21世紀最多の金メダル数。男子は中国、インドを抑えトップに!
金メダリスト全員がアフリカ出身選手のバーレーンが国別金メダル数で中国と並びトップ

金メダル6個の内容

ジャカルタ・アジア大会の陸上競技で日本が獲得した金メダルは6個と、21世紀に入ってからは最多数(表1参照)となった。また、国別金メダル数では中国、バーレーン、インドに次いで4位だが、男子は中国、インドを抑えてトップと健闘した。
男子短距離種目が期待通りの結果を残した。200mの小池祐貴(ANA)と4×100mリレーが金メダルを獲得し、100m銅メダルの山縣亮太(セイコー)も、10秒00の日本歴代2位タイと力を発揮した。
また、男子50km競歩で勝木隼人(自衛隊体育学校)が日本勢2連覇を達成し、20km競歩の山西利和(愛知製鋼)も銀メダルの健闘。
男子短距離と競歩は日本陸連の東京オリンピックの強化カテゴリーとして、ゴールドメダルターゲットに指定されている。強化に力を入れている種目がしっかり結果を出した。

男子マラソンの、32年ぶりの金メダルも特筆される。優勝は逃してもメダルは32年間、全ての大会で取り続けてきた。勝利にあと一歩届かなかった鬱憤を、井上大仁(MHPS)が見事に晴らしてくれた。
男子棒高跳の山本聖途(トヨタ自動車)は、2013年のモスクワ世界陸上でも6位に入賞している。当時は勢いでできていた動きを、今シーズンは狙ってできるようになった。そのために新しい技術を定着させることに成功した。そこができると、20台後半でも記録を伸ばしていける。

そして男子十種競技の右代啓祐(国士舘クラブ)が2連勝を達成。男子最年長で主将も務めた右代。最初の種目で動きと感覚のズレに気づき、2種目目で修正する。自身の背中で、アジアでの戦い方を若い選手たちに見せていた。
日本チームの麻場一徳監督(日本陸連強化委員長)が目標に掲げた金メダル数は、「前回の仁川大会の3個を上回る4個」だった。
「マラソン、50km競歩、4×100mR、十種競技は計算に入っていました。それにプラスして200mと棒高跳で取ることができた。小池は進境が著しく、大舞台でも力を発揮してくれました。山本は小林(史明)コーチのもと、海外に積極的に出て行くことで今回の成果につなげた」
普段は表情をほとんど崩さない麻場監督が、にこやかにジャカルタ大会を振り返った。

総メダル数が減った背景

金メダルの個数は評価できるが、表1からわかるように銀メダルと総メダル個数は、20世紀の大会を含め、過去最低の数になってしまった。
「メダル全体の数が減ったのは、アジアのレベルが非常に上がっているから。中国、中東だけでなく、インドもパフォーマンスが上がっている。ベトナム、タイ、韓国、台湾などにも良い選手が出てきている」

女子のメダル数4個も過去最低で、これまでの最低だった7個を大きく下回った。
主将の福島千里(セイコー)がそうだったように、最終選考会の日本選手権後にケガをした選手が多かった印象がある。
800m4位の北村夢(エディオン)も同様で、やり投4位の斉藤真理菜(スズキ浜松AC)は、本番の2投目で左足首を痛めてしまった。
女子5000m4位の鍋島莉奈(JP日本郵政グループ)は、ダイヤモンドリーグなどでスピードに対応できる自信を持って臨んだ。だが自分でペースを上げたところで、外国勢がさらにペースを上げたとき「ちょっと厳しいかな」と気持ち的に引いてしまった。
メダルを逃した印象の種目が多かったが、女子800mの4位は過去40年間の日本選手最高順位タイである。3人が2分3秒以内で走るなど国内レベルの向上が、アジア大会の成績に結びついた。アジアのレベルアップに苦戦が続くのは避けられないが、日本もレベルアップすれば戦える。

山縣が海外日本人最高タイ&セカンド記録日本最高

日本選手は記録的にはどうだったのか。
表面がチップ型で今の日本には少なくなっているトラックに、苦戦した選手が少なくなかった。自己新は男子200mの小池の20秒23、女子七種競技の山?有紀(スズキ浜松AC)の5873点。自己タイは男子100mの山縣の10秒00。
合計3個は、近年の五輪&世界陸上と大きく変わらない。
小池は昨年から指導を受けている臼井淳一コーチとの練習で、「日本選手権と同じ感覚ではない。必ず進歩している」という自信を持って臨んだ。山?は2月にアジア大会のプレ大会で同じ会場で試合をしていた。そのときと同じ審判たちと笑顔を交わし、ホーム感覚で競技をすることができた。
驚くべきは山縣で準決勝から0.10秒タイムを上げ、2012年ロンドン五輪、16年リオ五輪に続き、国際大会で3回目の自己記録をマークした。桐生祥秀(日本生命)が持っていた10秒01を0.01秒上回る、セカンド記録日本最高でもあった。

バーレーンが中国に並ぶ金メダル12個

金メダル数ではバーレーンが12個と、ついに中国と並んでトップになった。リレー2種目を除く10人の金メダリストは全員が、アフリカからの国籍変更選手。スポーツ以外の目的で移住するケースもあるので配慮は必要だが、国際陸連が国籍変更規定を厳密にするのは当然だろう。
記録的には男子4×400mRでバーレーンが出した3分00秒56がアジア新。日本が1996年アトランタ五輪で出した3分00秒76を、22年ぶりに更新した。アジア記録はその1種目だけだったが、男子100mの蘇炳添(中国)が9秒92と、自身の持つアジア記録に0.01秒と迫った。

男子やり投のN・チョプラ(インド)の88m06も、アジア歴代3位とレベルが高かった。
今季男子400m障害で46秒98とアジア記録を更新しているA・サンバ(カタール)は、47秒66と大会記録を0.76秒も更新。同様に女子400mで49秒08のアジア記録を出していたS・ナセル(バーレーン)は、50秒09と大会記録を1秒04も更新した。
男子投てき3種目で4連勝に挑んだ選手がいたが、砲丸投のS・A・アル・ヘブシ(サウジアラビア)は記録なしに終わり、ハンマー投のD・ナザロフ(タジキスタン)は2位と敗れた。円盤投のE・ハダディ(イラン)だけが2位に5m62差の圧勝で、4連勝を飾った。
また女子三段跳でO・リパコワ(カザフスタン)が3連勝。2006年大会の七種競技優勝から、変則4連勝を達成した。

広がったドーハ世陸の楽しみ

金メダルを取った日本選手は、来年のドーハ世界陸上で入賞が期待できる。男子4×100mRはもちろんメダル圏内だ。
今回金メダルは逃したが、男子走高跳銅メダルの戸邊直人(つくばツインピークス)は、昨年の世界陸上銅メダリストのM・E・D・ガザル(シリア)と同順位。男子400m障害銅メダルの安部孝駿(デサントTC)は、決勝こそ終盤で抜かれて3位に落ちたが、予選の前半は日本記録(47秒89)保持者の為末大と同じくらいの速さだったという。
2人とも今季の国際大会成績やシーズンベスト(=自己記録)などから、世界陸上入賞が狙える力があるだろう。

他方、男子やり投の新井涼平(スズキ浜松AC)は75m24の7位と低調だった。
首の痺れなど昨シーズンの故障からは回復したが、練習に支障が出ていた期間が長く、以前の体力に戻らなかったようだ。来年の世界陸上には完全に復調し、前回アジア大会から北京世界陸上、リオ五輪と続けた84m以上の投げを、再度見せてくれるだろう。
男子走幅跳4位(8m05)の橋岡優輝(日大)と三段跳4位(16m46)の山下航平(ANA)も、優勝者とそこまで大きな差はなかった。
U20世界陸上優勝者の橋岡は、どんな大舞台でも必ず8mを跳ぶ力を見せ、リオ五輪では15m71とまったく力を発揮できなかった山下は、今大会では優勝者に約30cm差。2人とも今季の各試合の安定ぶりを見ると、今後一段レベルアップしそうな雰囲気がある。

男子4×400mRでは安部が3走を任され、45秒35のラップ(公式記録に記載のタイム)で走った。
ラップの自己記録を約1秒縮めたという。4走の飯塚翔太(ミズノ)は200mでは6位に終わったが、ラップでは44秒67と素晴らしいタイムで走った。
2走にも200m金メダリストの小池を起用。1走が400m日本選手権優勝のウォルシュ・ジュリアン(東洋大)だった。
格上のチームに勝つには、1〜2走から前に出る必要がある。男子短距離の土江寛裕五輪強化コーチは「スピードのある400m選手か、持久力のある200m選手」を起用したいと考えていたが、結果的に400m障害選手の安部も加わってきた。4×400mRの成績自体は銅メダルではあったが、選手個々の可能性を広めるきっかけになった。
ドーハ世界陸上で活躍する選手・種目が増える。その予兆をジャカルタで感じられた。

寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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